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 2018年、日本では例年に比べて大規模な建設事故が少なかった印象を受けます。ただし、たとえ被害が小さくとも、今後の再発防止に重要な示唆を与えてくれるケースは少なくありません。日経コンストラクション11月26日号では、特集「追跡!建設事故トラブル」を企画し、最近発生した事故について改めて取材しました。事故の原因を洗い直してみると、事故発生前に見落としていた盲点が次々と明らかになりました。

日経コンストラクション11月26日号特集「追跡!建設事故トラブル」から
日経コンストラクション11月26日号特集「追跡!建設事故トラブル」から
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 建設事故のなかでも、「安全帯の掛け忘れ」や「建機の用途外使用」によって起こった事故は、再発防止策を講じやすいとも考えられます。他方、設計や施工、維持管理などに落ち度がないように見えるにもかかわらず発生した事故の場合は、少々厄介です。特集記事ではそんな事例を取り上げました。

 例えば、17年10月に和歌山県紀の川市で発生した斜面崩落事故。原因は、斜面上に盛り土して造った農道でした。事前にボーリング調査を実施していましたが、地下水は無いと判断し、水の影響をあまり考慮せずに設計していました。農道を建設した和歌山県は責任を認め、国家賠償法に基づき住民らと補償交渉を続けていますが、設計に不備があったとは明言していません。

 他方、事故に関する調査検討会の委員を務めた京都大学防災研究所斜面災害研究センターの釜井俊孝教授は、盛り土の法尻に設置した補強土壁の排水が十分でなかった点を指摘します。盛り土施工後には、降雨後に盛り土の天端付近に水が溜まり、10日ほど抜けなかったという現象が見落とされていました。さらに釜井教授は、「調査の時、たまたま水が出なかっただけだ」と断言します。実際、農道計画の当初から、地域住民は県に対して湧水があることを何度も伝えていたといいます。

 新潟県出雲崎町で17年12月に発生したのは、陥没した路面に軽自動車が突っ込んで負傷者を出した事故。路面沈下の通報を受けて県の職員が現場を確認しながら、「よくある圧密沈下だろう」と判断し、対策を取っていませんでした。しかし、沈下した箇所は橋の端部で下に川が流れており、土砂が川に流出している可能性を疑ってみるべきでした。

 いずれも、事故が起こる前は気に留めなかったのに、事故が発生して原因を究明してみて初めて、「そういえば、あのときこんなことが…」と思い出された、といった事例です。こうした兆候を潰していくのが事故防止の近道ですが、全ての現象をしらみつぶしに確認するのは不可能。「地下水位に注意が必要なのはどんな地形か」とか、「構造物の劣化が表れやすいのはどの部位か」など、地形や構造物に応じて、事故につながる兆候をかぎ分けていく能力を鍛えることが、土木技術者には求められます。