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砂防ダム管理者も知らぬ上流の盛り土

 今、道路の在り方が大きく変わろうとしています。車よりも歩行者を優先する動きはその一例です。京都市内を通る四条通では車道を減らして歩道を広くした結果、歩行者が増えただけでなく、歩きやすいという評価も高まりました。歩行者の増加は街のにぎわいにも寄与します。

 こうした、車道を減らして歩道を広げる取り組みは、松山市の中心部を走る花園町通りでも実施され、大阪市内の大動脈、御堂筋でも計画が推進されています。中心市街地の幹線道路の変革トレンドとなっているのです。

 自動運転で走行する車などが増えてくると、自動車に乗る意味も大きく変わってくるでしょう。自動運転が進めば、車で移動する時間は単に移動のための時間ではなくなり、その移動時間に何かを生産したり、消費したりする時間に変わる可能性があるからです。移動時間の短縮といった尺度に重きを置いて道路を評価する現在の手法では、道路が生み出す価値を正確に評価するのは難しくなると考えられます。

 道路事業を評価する手法は、もはや制度疲労を起こしているのではないでしょうか。日経コンストラクション8月9日号の特集では、これからの道路事業の評価の在り方を考えてみました。インフラの価値とは何かを一緒に考えてみていただければ幸いです。

 前回の本コラムでもお伝えした通り、8月9日号では7月3日に静岡県熱海市内で生じた土石流災害について深掘りした記事、徹底検証「熱海土石流」を用意しました。この記事も土木技術者が考えを巡らせる材料になると思っています。

 記事では土石流の大きな要因となったとみられる上流部での盛り土が形成された経緯や、その崩壊メカニズムなどを紹介しています。この記事では、特に注目してほしい話題があります。土石流が起こった渓流には砂防ダムが存在したものの、その砂防ダムの管理者は、上流部での盛り土について何も知らなかったという事実です。

 治水や砂防インフラは、点での対策や管理を進めるだけでは、十分な安全性を確保できません。インフラの効用を点ではなく、流域全体という面で考えていくことが大切になっています。これは地球温暖化の問題がもたらしている気象災害の激化を踏まえて、治水政策で流域治水にかじを切った動向を見ても明白です。事業評価の問題と同様に、部分最適の考え方はこれからの時代にそぐわなくなっているのです。

 国土強靱化の名の下、各地で様々なハード対策が進んでいます。しかし、その周囲の状況について情報を取り入れながら管理していくような仕組みを構築していかなければ、時間経過とともに、そのインフラに期待できた効果が目減りしてくる恐れがあるのです。

 事業で得られる効果を長期にわたって維持していく方策を考える材料として、熱海土石流での組織間の連携不足の問題は示唆に富んでいます。どうぞ誌面でご確認ください。