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 夏休みは物事をゆっくり考える時間を取れる好機です。公共事業の意義を測るために実施されている事業評価は、土木の世界で活躍する実務者が思考を巡らせるうえでよい材料になるのではないか。そんな考えを基に、日経コンストラクション2021年8月9日号では「時代遅れの道路事業評価」と題する特集を企画しました。

 国や高速道路会社などが担う道路事業では、その事業を実施する経済的な合理性があるか否かを判断する費用便益分析が実施されています。道路整備や維持管理に要する費用と、道路建設によって得られる便益を貨幣換算した金額とを比較し、便益の額が上回っていれば、事業を実施する価値があると判断できます。便益をコストで除した数値を費用便益比(B/C)と呼び、その値が1を超えていれば、事業の実施が妥当とみなせます。

 東京都内で進む巨大な道路事業である東京外かく環状道路(外環道)の建設工事。東名高速道路や中央自動車道と結ぶ区間の大深度地下工事を実施していたところ、調布市内の住宅地で20年10月に道路の陥没事故が発生しました。発注者の東日本高速道路会社は、外環道を建設するためのシールドトンネル工事が原因だったと認めています。

 この大深度地下でのトンネル工事区間を含む外環道の関越自動車道から東名高速道路までの区間について、国土交通省が20年7月に公表した費用便益比は、既に1.01まで低下していました。今回の陥没事故の発生によって事業に遅れが生じたり、被害に遭った住宅地の住民への補償などの費用がかさんだりするので、この数字は今後、さらに悪化する可能性が高いでしょう。

 では、この数字が1を切ったら外環道のこの区間の工事はやめるべきなのでしょうか。ここで事業をやめてしまうと、外環道全体の価値が損なわれることは間違いありません。

 外環道という目立つ事業を例に挙げましたが、地方の道路事業では国が定める方法でB/Cを計算しても、なかなか1を超えないという状況が生じています。そのため、一部の自治体は様々な理由を付けて評価項目を加えたり、B/Cの算出時に補正係数を乗じたりする苦肉の策を講じています。何とかB/Cが1を超えるように調整しているといっても過言ではありません。

 現状の道路の費用便益分析で見込む便益は、自動車の交通量に大きく左右されています。交通量が都市部に比べて少ない地方では、道路整備によって得られる便益が大きくなりにくく、数値補正に頼ろうとしているのです。