日経コンストラクション2021年10月25日号では、国や自治体を含めた建設産業界全般に、強く変革を求めたい話題を巻頭記事に据えました。トピックス「2度の支承損傷で“意識の低さ”露呈」です。
記事で取り上げたのは、橋の損傷を巡る施工者や施設管理者などの対応です。日立造船が施工した橋で、呉羽製鋼(兵庫県伊丹市)の製造したローラー支承が1年ほどの間に2度も破損。橋を通行できなくなる事態を招きました。
トピックス記事では、最初のトラブルを受けて、大手鋼橋メーカーや橋の管理者などが、同種事故の防止に向けてどのような対応を講じてきたのかを追いかけています。詳しくは記事をご覧いただきたいのですが、3つの点で落胆させられる結果となりました。
1つは、京都府舞鶴市が管理する橋で最初の損傷が発覚した後に、日立造船が同種の支承を用いた橋の調査などを実施しなかった点です。最初の支承損傷では、その製造過程に問題があった可能性が指摘されており、支承を起点とした同種事故のリスクは想定し得る問題でした。
呉羽製鋼も支承製造から撤退し、納入先のリストが残っていない状況といいます。ものづくりを担う組織の振る舞いとして、本当にこれでよいのか。大きな疑問が残りました。
2つ目は業界団体やインフラ管理者などの動きが鈍い点です。インフラで大きなトラブルが発生した場合、国などの施設管理者や業界団体が、同種トラブルのリスクをあぶり出す調査を実施する例は少なくありません。国が管理する橋で今回と同様のトラブルが起こっていれば、業界団体などに国が調査を依頼していた可能性は小さくないでしょう。
しかし、舞鶴の橋で起こった事故の後に、そうした調査や点検などは実施されませんでした。そもそも、最初のトラブルがあった橋を管理する舞鶴市は、メーカーへの風評被害のリスクを考慮し、損傷した支承のメーカーを公表しませんでした。インフラ管理者は誰のために仕事をすべきか。この点であまり納得できない判断だと感じました。
土木構造物のように公共性が高い施設のリスクについては、そもそも、自治体内だけでは問題が解決しない例も多いでしょう。他の自治体や国なども同種の問題を抱えている可能性が考えられる以上、詳しい情報をいち早く公表し、全国でリスクを回避しやすくすることの方が大切なのは言うまでもありません。