水管橋の点検に足りない視点を探る
土砂災害のリスクをはらむエリアは膨大です。限られた予算でのやり繰りを求められる行政が、どこまで民間の資産に資金を提供してよいのかは、議論が分かれるところでしょう。対策を講じた敷地は、その分価値が向上するので、所有者に大きな利益がもたらされるのも事実です。
ここで重要なのは、その投資が公的な意味をどれだけ持つかという点に尽きます。民間の敷地に利益がもたらされるとしても、他の市民に還元される効果がずっと大きければ、大抵の市民は納得するでしょう。市民の納得感が高い工事に適用されている限り、斜面防災への助成制度に対する批判の声はあまり上がらないはずです。反対に他の市民へもたらす効果が小さければ、冒頭の「ばらまき」と呼ばれる施策と同様に批判は免れません。
同特集では、こうした助成の在り方を改めて見つめ直す記事の他、民間の土地の災害防止対策で活用できそうな最新技術を紹介しました。さらに、本特集を執筆した真鍋政彦副編集長が執筆陣に名を連ねた書籍「私たちはいつまで危険な場所に住み続けるのか」(2021年10月25日発行、日経BP)では、激しい降雨などがもたらすリスクと宅地の関係を深掘りした話題を満載しています。こちらも読み応え十分ですので、お手に取っていただけると幸いです。
同号では、和歌山市で発生した水管橋崩落事故について掘り下げた記事も用意しています。トピックス「水管橋崩落、放置された点検の死角」です。中央自動車道笹子トンネルで発生した天井板崩落事故を受けて道路橋で進んだ点検と、水管橋の点検との違いなどを分析。水管橋の維持管理において改善すべき項目を浮き彫りにしました。
人気連載の「土木の法務解説」では、大阪府が整備した調節池の工事によって、隣接する工場に不同沈下が生じたという点で争われた裁判を取り上げました。施工者の責任を認めず、発注者側の責任だけを認定した異例の判決を、建設関連の法務に詳しい江副哲弁護士がひもときます。
建設関係のトラブルや社会問題など、日経コンストラクションでしか読めない話題が満載の11月22日号を、ぜひご一読願います。