日経コンストラクション2022年2月28日号では、土木施設の設計ミスに着目した特集「危うい設計品質」を用意しました。特集では日本工営が設計を手掛けた河川施設で構造計算を誤り、発注者の川崎市に約3億円を支払う見通しとなった事例をスクープするなど、あまり知られていない設計ミスの事例を詳しく報じています。
特集で紹介した数々の設計ミスを振り返って感じた大きな教訓の1つが、既存の施設と同じように造っておけば間違いはないという「過信」の恐ろしさです。災害復旧事業などで既存の施設と同じ仕様で造り直した結果、必要な性能を満たさない構造物が出来上がってしまった事例は、その端的な例です。
確かに、既存の施設には全て問題があると疑ってかかるのは簡単ではありません。これまでの仕様を単純に踏襲して復旧する方が手間も省けます。災害復旧の事業であれば、スピードも要求されますから、検証に十分な時間を割くことが難しいケースもあるでしょう。
ただ、特集で紹介した失敗を見てみると、構造物の基本的な特性などを俯瞰(ふかん)して捉える力があれば、詳細に計算しなくても既存施設の仕様に疑問を抱けたのではないかと感じられる事例が存在します。多少の過信があったとしても、技術の本質を捉える力があれば、小さな違和感から妥当性の検証に結び付き、設計ミスを防げたのではないかと思います。
こうした違和感は設計者にも発注者にも、そして施工者にも必要な技術力だと考えます。この技術力を手に入れるには、日常的な業務で技術的な検証などを積み重ね、考えるくせをつけていく他ありません。
ところが、近年はこうした力量を養うのが難しい環境が拡大しています。業務効率化や生産性向上に向けたデジタル化の進展はその代表です。
例えば、設計業務では条件を入力すると構造物を自動で設計するプログラムなどの開発が進んでいます。機械的な検証は容易になりますが、技術者が頭を使って技術的に考察する機会はその分、減ります。コロナ禍で進んだ遠隔での現場確認によって、実物を見て学ぶ機会が減っている現場も多いはずです。
業務革新と同時に、新しい環境下での技術継承をどのように進めるかを考えていく必要があります。技術者層が50代以上のベテランに偏っている組織は少なくありません。きちんとした技術力を養えるような環境整備については、建設産業界を挙げて、喫緊の課題として取り組む必要があります。