経営層から「AI(人工知能)で何か技術開発できないか」と漠然と指示されて困る──。5年ほど前、建設業界にAIのブームが到来した際、取材先からこんな愚痴をよく聞きました。改善したい作業が明確になっているわけでもなく、AIをやみくもに適用して何も生み出せないという“AIあるある”話です。
同じようなことが「データの扱い」でも起こっているようです。建設業界では橋の挙動データをセンサーで取得したり、設計や工事の納品物を電子化したりして、アナログからデジタルへの移行が進んでいます。そこでは「データを大量にためておけば、仕事で何らかの役に立つはず」というぼんやりとした理由で、とりあえずデータを取っておく技術者が大半です。
日経コンストラクション2022年9月号では、デジタル化やデータの蓄積、それ自体が目的化しない社会へ、とうまく着地してほしいとの思いから、特集を企画しました。大量のデータを扱うハードルの高さを押し寄せる波と捉えて、「データ時代(ウェーブ)にのまれるな」というタイトルを付けています。
特集では、「オープンデータ」の動向にページを多く割いています。というのも取材を進めていく中で、インフラデータを囲い込むという考え方が古くなっていることを実感したためです。クローズドな環境で、自分たちでデータを保管・運用するだけでは、十分に活用できないのです。冒頭のAIのように、使い方を意識できていない一例かもしれません。
特集で紹介しているオンライン型の電子納品システムは、原則として3次元点群データや3次元設計データを公開することになっています。そのシステムを採用する静岡県は2021年7月に熱海市で起こった土砂災害の際、オープン化した点群データを使って災害の実態を早期に把握しました。この好例が契機となり、全国で徐々にですが、公共事業の設計図書などのオープン化の機運が高まっています。
データ時代には、大量のデータからエンドユーザーなどに適切な情報だけを伝える視点も重要です。特集の最初のパートでは、防災・気象情報の伝え方について取り上げました。避難を促す真に必要な情報は何か。情報があふれる時代において、情報の取捨選択は避けて通れない問題です。管理者だけで知恵を出すのは限界があり、市民や民間企業の関与が欠かせなくなっています。
なお、誌面の特集だけではスペースが足りなかったために、日経クロステックでも姉妹特集として、オリジナルのコンテンツを提供しています。行政のオープンデータを市民が分析して、行政サービスの課題解決を図ろうとする取り組み「シビックテック」や、コンクリートの打設データを次の打設管理に生かしている山口県のシステムなどについて取り上げますので、ぜひお読みください。