ここ数年、日本の建設産業におけるM&A(合併・買収)の件数が増え続けています。M&A助言会社の調査によると成約件数は、2015年の50件から21年には157件と約3倍になりました。建設業界では事業承継難や人手不足、高齢化、時間外労働の上限規制など、待ったなしの問題が山積しています。それらを解決に導く一つの手法としてM&Aが、地方などを中心に注目されているのです。
M&Aというと、企業の乗っ取りをイメージする人も少なくありませんでした。しかし、成功事例などが増えて、そのイメージが正しくないと認知されてきたのでしょう。地域や業種・工種をまたぐなど多様な形態で、M&Aが実施されています。そこで日経コンストラクション2022年11月号では、建設M&Aの実態をもっと広く、深く知ってもらうために、特集「もう止まらない建設M&A」を企画しました。
特集の初めのパートではM&Aへのハードルが下がってきている事例を取り上げました。日本M&Aセンターの社内起業で発足したバトンズ(東京・中央)が運営するWebサイトの例です。Web上に事業譲渡の案件が並んでおり、気になる案件があれば、クリック一つで成約に向けてM&Aの検討に移れるというわけです。賃貸・分譲の住宅を探すサイトをイメージすれば分かりやすいと思います。
成長戦略型のM&Aも増えており、自らの経営資源だけにこだわらず、大手資本の傘下に入って成長する企業が目立つようになってきました。成長のために「身売り」することは、一昔前の建設業界では考えられませんでした。
調剤薬局や物流、ITソフトウエアなど他の業界では再編が進んでいるといいます。建設業界で増えているM&Aは必ずしも業界再編を目指したものばかりではありません。しかし、建設M&Aの伸び率は今後も上がりそうで、結果的に業界再編を促す動きになるのではないかと思っています。