公共事業で当初見込んでいなかった費用を途中で上積みし、事業費が膨れ上がることは多々あります。事前に想定が難しかったならば仕方ないのですが、意外とそうではない事業があるのでは──。青野昌行編集委員と橋本剛志記者がそこに問題意識を持ち、日経コンストラクション2023年3月号の特集を作り上げてくれました。
特集のタイトル名は「後出し増額の罪」です。「後出し」という言葉は、じゃんけんでよく使われます。相手が出した手の形を見て、自分の手を遅れて出すことです。後出しはずるい、後出しは駄目と教わってきました。では、当初の時点で事業費を見込んでおくべきだったのに、遅れて(事業途中で)事業費を上積みする「後出し増額」はずるくないのか。
特集を読んでもらえると分かりますが、全ての増額案件が駄目だと言っているわけではありません。複数年にまたぐ大型事業では、資材価格の高騰や技術基準の変更など、当初時点で想定できない要因があるからです。
ただし、何でもかんでも「想定できなかったから仕方ない」で済ませるのはおかしいと思っています。例えば、現場では想定外の地質や地盤に遭遇することがあります。それでも調査や測量の箇所を増やすか、他の事業などをもっと参考にすれば、想定外を減らせるはずです。
その他、当初計画が地元の反発を招き、対策を講じて増額になる──といったケースもあります。地元との協議による計画変更は増額の口実に使われやすいようです。当初から計画を真剣に考えず、地元と協議した上で決まってから対応すればいいと思う人は少なくありません。
後出し増額の慣習は「B/C」(費用便益比)の評価手法の結果をゆがめてしまう恐れがあります。「事業が採択されやすくなるよう事業費を小さく見積もり、後から膨らませる」。ある国交省OBはこう明かします。本来、進めるべきではない事業が採択されれば、税金の無駄遣いにもつながるわけです。
特集の後半では解決策の一助となる事例も紹介しています。例えば、大阪市ではリスク管理手法を大型プロジェクトに取り入れており、発生確率がある程度高いリスクによる増額を、あらかじめ事業費に盛り込んでいます。ほぼ確実に必要とされる費用だけで見積もる従来の事業費とは考え方が異なります。