2017年、小堀哲夫氏は「ROKI Global Innovation Center -ROGIC-(ROKIグローバルイノベーションセンター)」(14年)で、建築学会賞作品賞とJIA日本建築大賞を同年度ダブル受賞した。シミュレーションを駆使しつつ、人の感性に重きを置いた環境建築をつくり続ける。そんな小堀氏に、省エネ基準への適合や、最近の取り組みを通して、設計者としての思いを語ってもらった。
2017年4月から延べ面積2000m2以上の非住宅建築物を対象に、省エネ基準への適合が義務化されましたが、設計業務に変化はありますか?
私が設計する建物の多くは適合義務の対象になるので、義務化が始まる前から慌ただしくなりました。省エネ性能の適合性判定が必要になるプロジェクトの設計では、設備設計事務所とかなり細かいやりとりをするようになりました。
というのは、省エネ適判を受けるためには、厳密な設備設計をしておく必要があるからです。設計段階で1台1台の設備機器の製品まで細かく仕様を決め、性能値を明確に決定しておかなければなりません。
その意味で、省エネ適判は設備設計を大きく変えます。分かりやすく言えば、従来の設備設計は安全率を織り込みつつ80点くらいの内容で作成しておき、最終的には現場で決めるのが一般的な流れでした。ところが、適判物件では、設計段階で100点の設備設計をしておく必要があるのです。
当然、施工者が変更することもできないわけですね。
構造の適判と同じで、省エネ性能についても適判を受けた設計に従って施工しなければなりません。もしも施工者がVE(バリューエンジニアリング)などで変更するならば、再度、施工者の責任で計算し、適判も申請し直す必要があります。
これまで、設備はVEの対象にされがちでしたが、適判を受けた建物では従来のような変更は簡単にはできません。つまり、それほど厳密に設計段階で性能を規定しておく必要があるのです。
省エネ適判に関連する業務は外注していますか?
そうです。意匠も設備も設計業務だけでも多忙なので、外注に頼らざるを得ません。初期のコンサルティング的な段階ではお互いにチェックしながら設計を進めますが、計算プログラムに乗せる段階は完全に外注になります。私たちのようなアトリエ系の意匠設計事務所だけでなく、組織設計事務所なども同じ状況のようです。
そのため、今、省エネ適判の届け出支援業務を手掛ける会社や評価機関は手一杯の状態です。人手が足りないのでケースバイケースですが、コストも上昇傾向にあります。
適判のための外注費は、設計料から支払うのですか?
60万円とか80万円といった費用なので、設計料で賄うには負担が重く、建て主に支払ってもらうしかありません。
建て主は、その費用を理解してくれますか?
そこが悩ましいところです。私も最初はうっかりしていたのですが、設計契約の段階で、省エネ適判に関連する実費は別途業務として明記しておかないと、理解してもらえないのが実情ではないでしょうか。
省エネ基準の適合義務化からまだ1年弱ということもあり、建て主には十分に認知されていません。「省エネ適判て何なの?」「どうしてそんなに費用がかかるの?」ということになってしまうのです。その辺りをきちんと説明して、別途業務になることへの理解を、最初に得ていく必要があると思います。
省エネ基準の適合義務化は、建て主にメリットがありますか?
性能を担保する点で安心できるのではないでしょうか。省エネ適判を受ければ、設計段階で厳密に性能が規定され、現場で大きく変わることがありません。例えば、これまでだと、設計図書に厚さ50mmと記載された断熱材を、現場段階で35mmに変更するというようなことがあり得ました。
こうした変更は、設計者と施工者の間で決められています。それによる環境性能の違いの説明を受けても、建て主はあまり理解できないでしょう。その意味では、これまでの環境性能は、建て主にとってブラックボックスのようなところがありました。省エネ適判を受ければ、現場判断の変更はしにくくなり、設計した通りの性能が担保されます。