意匠と設備を統合し省エネ性能を心地よい空間に
小堀哲夫氏(小堀哲夫建築設計事務所 代表) 聞き手/小原 隆=省エネNext編集長
働き方改革と連動した環境性能
省エネ建築を深く社会に根付かせるためには、設計者としてどのように取り組んでいくべきでしょうか?
今、大切なのは、多くの“一般解”を打ち出していくことだと思います。私自身、誰でも参考にできる一般解になり得る建築を設計しています。
例えば、福井市のNICCAイノベーションセンターで取り入れた「還元井戸」も、その1つです。福井は地下水が豊富な地域で、建て主の日華化学も昔から地下水を利用していました。
NICCAイノベーションセンター。各キューブはフリーアドレスのオフィス空間で、社員同士が働く様子を見渡せる。吹き抜けに立ち上がる壁に冷媒管を打ち込み、放射空調を採用。冷媒管に循環させる地下水は、トップライトの散水、潅水、融雪などに「カスケード利用」した後、自然に戻している(撮影:新井 隆弘)
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NICCAイノベーションセンター。大通りに面した東向きの外観。縦と斜めの桟による2層構造のアルミルーバーによって、直射を遮りつつ、明るさを確保する。周辺の住宅地に対する表情を意識した外観デザインでもある(撮影:新井 隆弘)
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NICCAイノベーションセンターでは、その地下水を、放射空調や日射熱除去の熱源、屋上の散水などとして最大限に活用し、建築の環境性能の向上を図っています。そして、使い終えた水は自然に戻しています。躯体打ち込み式の放射空調の熱源に地下水を利用し、自然に還元する取り組みは、国内で初めてでした。
地下水利用のシステムを実現するために、設計ではさまざまな工夫をしています。しかし、新しい技術を開発したわけではなく、既存技術の組み合わせです。地下水の利用も、地域で昔から行われてきた普遍性のある一般解です。
NICCAイノベーションセンター。「コモン」と呼ばれる吹き抜けが連続する内部空間。直射を遮りつつ、十分な自然光が入るスリットが天井を覆う(撮影:新井 隆弘)
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NICCAイノベーションセンター。実験室の設備配管類をバルコニーに引き出すことで、外周部の実験室の廊下側も開放し、内側の大空間と連続させている(出所:小堀哲夫建築設計事務所)
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NICCAイノベーションセンター。断面図(出所:小堀哲夫建築設計事務所)
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