森と一体化したZEB
進行中のプロジェクトにはどのようなものがありますか?
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の認証取得を目指して、静岡県浜松市の「森の中の創造技術研究所」を設計中です。貴金属やレアメタルの精錬会社の新社屋で、オフィスと技術研究所から成ります。別棟になる技術研究所も含め、現段階で全体の延べ面積は4000m2弱です。
自然環境に恵まれた立地で、敷地の北側が緑の豊かな崖地になっています。そこで、オフィスになる建物を崖の地形に沿って北向きのひな壇状に建て、緑の森を取り込む全面ガラス張りで考えています。必要な外皮性能を確保するために、開口部はトリプルガラスの高断熱サッシで検討しているところです。
ガラスカーテンウオールの大開口でZEBというのは、チャレンジングですね。
ガラスの大開口はZEBを目指すには不利です。しかも、今回は一部が開閉します。しかし、目の前に広がる森と一体化した暖かみのある空間と、外皮性能の確保を両立させたいので、開口部は熱伝導率をできるだけ抑え、高い外皮性能を確保したいと考えました。
開口部以外にも試みることはありますか?
崖地に出る豊富な湧き水を建物内に引き込んで空調負荷の低減などに使いたいと考えています。また、建物の構造も、地域材を使い製材をベースにして、地元の大工でも施工できるような木造にしたいと思っています。さらに、敷地の崖地を覆う森は、そのまま川沿いに広がる浜松市の公園につながっているので、双方の自然を一体的に管理して活用していく方法も模索しています。
トリプルガラスの高断熱サッシのように、環境建築に対する小堀さんの取り組みは、ZEBのルールに乗ってこないものも多いから、実現させるのは大変そうですね。
そうですね。ZEBはあくまで数値の積み上げなので、数値で示せなければなりません。ZEBを達成するために、今回は環境共創イニシアチブ(SII)に登録されたZEBプランナーに依頼しています。ZEBの専門的見地から、設計の検証や計算、補助金を得るためのコンサルティングなどを手掛ける会社です。
ZEBプランナーへの委託費は、建て主に負担してもらうのですか?
そうなりますが、建て主としては、当然、費用対効果を考えます。そのため、関連する国の補助金を得られるように、設計を細かく検証しているところです。
小堀さんは、設計段階で温熱環境や光環境などのシミュレーションを取り入れていますが、最終的にはどのように生かしているのですか?
シミュレーションは非常に有用ですが、あくまで目安ととらえています。シミュレーションを参照しつつ、模型や現場で検証を重ねて、最終的な環境を詰めていきます。
人間本来の感覚や感性に対して、シミュレーションの結果が、必ずしも適正とは言えません。そこに光や風や地域特性などを加味して調整することで、誰にとっても心地よい、本当の意味でのユニバーサルスペースができるのではないかと思います。
20世紀にミース・ファン・デル・ローエが提唱した「ユニバーサルスペース」というのは、今のような固定化された均質空間ではなく、そうした多様な活動や環境を許容する空間ではないでしょうか。
ユニバーサルスペースをつくるためには、意匠も設備も一緒に考えていく必要があるということですね。
建築の空間は、さまざまなパラメーターを統合してできるので、環境も設備も構造も一緒に考えるのが、私としては自然なことです。設備設計で出てきたシミュレーションを、人の感覚や感性から調整して最適な空間へと統合していくところに、意匠設計者の役割があるのではないでしょうか。