日本設計では2017年10月、BIMを活用し早くから意匠・構造・設備の融合を図る狙いで新しい部署を立ち上げた。省エネ建築への建築主の理解を広めていくには、健康や事業継続など省エネとは別の観点から価値を打ち出すことが不可欠と説く。
2017年4月に省エネ基準への適合性判定が始まって1年近く。設計の現場はどのような状況ですか。
大きな混乱は聞こえてきません。手掛けている案件は規模が大きくグレードも高いので、判定をクリアすること自体はそう難しくありません。
ただ、これから経験することになるのでしょうが、設計変更への対応は課題になりそうです。とりわけテナントビルの場合、ビル完成前にテナント発注の工事が発生し、設備の追加や仕様が変更になることがあり得ますから。
新しい手続きが加わって、設計報酬の見直しが生じます。建築主の理解は得られていますか。
省エネ適判の開始によって、省エネは構造や防火と同様に建築確認に必須という位置付けを得られましたが、その点はまだまだです。それでも、省エネの重みが増したことで建築主側との交渉は進めやすくなると期待しています。
建築主の立場は私たちと異なります。まず事業を成り立たせないといけない。それでも、補助金を得たり成功体験を積み重ねたりしていくなかで、より省エネ性の高い案件に取り組めるようになっていくと思います。互いに理解し、目標を共有することが大事です。
その目標をどの程度に設定すればいいか、容易には決められません。
難しいと思いますが、BELS(ベルス)(建築物省エネルギー性能表示制度)も用意されています。それを活用し目標を早めに設定することで、建築費の調達を検討したり建築主の内部で意思統一を図ったりし てもらうことが重要です。
省エネ性の高さが光熱費の安さをもたらすだけでは説得力に欠けます。
設計者が省エネ以外の良さ、ワーカーの健康面や事業継続の観点などで価値を打ち出すことが重要です。例えば空調システムでは、温度だけでなく湿度まで制御したり、より優れた空気質を提供するものにできれば、健康面にプラスに働きます。経営者から見ればオフィス環境の充実は人材確保にもつながります。虎ノ門ヒルズの空調は、そうした可能性を秘めた一例だと思います。