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住宅業界の実態と行政効率

 以前から、そもそも個人の財産である住宅に対し、罰則を伴う強制力を持って一律に規制することの是非は問われていた。

 小規模住宅・建築物の省エネ基準に対する適合率や習熟度の低さについては、事業者側の努力が足りなかった面は否めない。ただ、17年度に供給された新築注文戸建て住宅のうち、省エネと創エネを組み合わせて年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにするZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は15%を占めた(Nearly ZEHを含む)。基準適合どころか、より高性能な省エネ住宅を供給できる工務店や設計事務所は少なからず存在する。事業者のトップとボトムの差は確実に開いているのが実情だ。

 また、建築確認手続きに連動する適合義務ではなく、届け出義務の対象にするという考え方もあった。不適合の場合は所管行政庁が指示・命令をすることができる制度だ。しかし、小規模住宅・建築物は新築件数が非常に多い(17年度で全体の91.7%)。所管行政庁の業務量が膨大になる懸念がある。

 現時点では、300m2以上2000m2未満の建築物と、300m2以上の住宅は届け出義務の対象だ。所管行政庁に行った調査によると、無届け出物件に届け出るよう督促していない行政庁は約35%、不適合物件に指示していない行政庁は約77%あった。このような状況のままで届け出義務の対象を拡大するのは危うい。

 今の住宅業界の実態や行政効率という面から見ると、報告案はベターかもしれない。そうであれば、省エネ住宅を普及させる効果がどれだけ期待できるのか。消費者の理解を促し、事業者の知識や技術を向上させなければ意味がない。ここでは報告案が実行された場合を想定して考えてみたい。

 まず説明義務について。設計時に省エネ計算しておかなければ、省エネ基準への適合可否は説明できない。いまのところ、省エネ計算ができる建築士事務所は50%程度(日本建築士会連合会の調査)、同じく中小工務店も50%程度(リビングアメニティ協会の調査)に過ぎない。建築士が省エネ計算に慣れ親しむきっかけになる。

 省エネ計算して不適合だった場合、わざわざ不適合を説明する建築士がいるだろうか。性能確保が当たり前と思っている建築主にとって、不適合は論外のはず。適合に改善することはもちろん、目標性能の選択肢を示す提案の実現にも寄与しそうだ。

 説明義務は、適合義務など法規制で家づくりを厳格に縛るのではなく、市場原理に委ねる形となる。きちんと説明できない事業者はいずれ淘汰される。説明を契機に、ZEHやLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅など、より高性能な省エネ住宅のニーズが高まり、新たなサービスが生まれるかもしれない。

 説明を受けた建築主がどのような家に住みたいかを自ら考え、判断し、最適な事業者を選ぶきっかけになるといい。そのためには注文住宅の建築主だけでなく、建売住宅やマンションの買い主、賃貸住宅の借り主にも説明がきちんと伝わる仕組みが欲しい。

 その時に、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)は“モノサシ”として役に立つ。説明義務化と併せて、BELS表示も義務化したい。

 もう一つ、報告案で注目すべき項目がある。「注文戸建て住宅や賃貸アパートの建築を大量に請け負う住宅事業者を住宅トップランナー制度の対象に追加する」という点だ。

 現行の住宅トップランナー制度は、年間150戸以上の新築建売戸建て住宅を供給する住宅事業建築主(住宅トップランナー)を対象に、基準に適合しない場合は国土交通大臣が勧告・公表・命令をすることができる。16年度の基準適合率は92%だった。

 住宅トップランナー基準は、20年度以降は一次エネルギー消費量基準(BEI)で0.85が求められる。「BEI=設計一次エネルギー消費量÷基準一次エネルギー消費量」で、新築時に1.0以下が基準適合となるため、より高い性能が必要となる。0.85はBELSの4つ星相当だ。

 「大量」の定義はこれから検討が進むと思うが、新築住宅の中で大きな比重を占める事業者が省エネ住宅に取り組むようになれば、住宅市場に与えるインパクトは大きいはず。断熱材や窓、エアコンなど、省エネ性能に係る建材・設備の高性能化、低価格化が期待できる。普通の家づくりで低性能の建材・設備が選べなくなり、知らないうちにどんどん性能が高まっているという状態は遠からず来るだろう。

 意欲と能力のある事業者はより高性能を目指し、適合義務化で肩を押されるのではなく、住宅市場の肩を押す側に回ればいい。地球温暖化は待ってくれない。できるところから始めたい。

各基準で求められる適合レベル。建築物省エネ法の施行は2016年4月1日。低炭素認定のBEIは非住宅も住宅も0.9以下。容積率特例の上限は低炭素認定が5%、性能向上計画認定は10%(資料:国土交通省の資料を基に日経BP総研 社会インフララボが作成)
各基準で求められる適合レベル。建築物省エネ法の施行は2016年4月1日。低炭素認定のBEIは非住宅も住宅も0.9以下。容積率特例の上限は低炭素認定が5%、性能向上計画認定は10%(資料:国土交通省の資料を基に日経BP総研 社会インフララボが作成)
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延べ面積300m2未満の小規模住宅におけるシェア(資料:国土交通省)
延べ面積300m2未満の小規模住宅におけるシェア(資料:国土交通省)
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 国交省では19年1月5日まで、報告案についてパブリックコメント「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第2次報告案)」に関する意見募集を実施している。みなさんの意見や提案、情報を届ける絶好の機会になるので活用してほしい。