総合設備会社ダイダンは2019年5月、エネフィス四国を完成させた。創エネを含む1次エネルギー消費量の削減率が101%となるネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)だ。前編に続き、設計・施工を担当したダイダンエンジニアリング本部ZEB推進部長の杉浦聡氏と同技術部管理課担当部長の片山茂克氏、NTTファシリティーズエンジニアリング&コンストラクション事業本部プロジェクト設計部の甘粕陽介氏にプロジェクトを解説してもらう。
ダイダンのZEBに関するこれまでの取り組みと、2019年5月に完成した「エネフィス四国」(高松市)の位置付けについて教えてください。
杉浦 聡氏(ダイダンエンジニアリング本部ZEB推進部長。以下、杉浦) 2013年に建設した新研究所(埼玉県三芳町)を皮切りに、自社建物を用いた環境配慮技術の実験・検証と省エネに関わる製品開発に積極的に取り組んできました。並行して、クライアントに対する省エネの設計・施工や提案を実施してきました。そうした流れの中でネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)というカテゴリーができたため、現在はZEBに取り組んでいる状況です。
国内に点在する当社の事業所は旧耐震基準で建設された古い社屋が多く、事業継続計画(BCP)の観点から建て替えが必要になっています。まず2016年に規模の大きな九州支社(福岡市)を、検証用ラボの機能を備えた「エネフィス九州」として建設しました。
当時はまだZEBの定義が示されていませんでしたが、ZEBの実現に寄与するアイテムを導入し、現在のZEB Readyに相当する建物としました。BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)の5つ星、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)の「(新築)Sランク」などの認証を取得しています。
ZEBは実際に運用してみないと、「ここが使いにくい」「こういう機能が欲しい」といった課題が見えてきません。ZEBオフィスの第2弾となるエネフィス四国では、エネフィス九州で得た知見を生かしつつ、汎用化を視野に入れたコスト削減、あらゆるモノがネットにつながるIoT(モノのインターネット)技術による自動制御システムなど、九州ではできなかった取り組みを新たに導入しました。
次は、北海道支店の建て替えを計画しています。北海道は、全国でも厳しい気候条件を持ち、18年には大きな地震とそれに伴う停電を経験した地域です。今回とはまた異なるアイテムを導入しながら、新しいテーマに挑戦していく予定です。
完成から3年を経たエネフィス九州に対する利用者の反応はいかがですか。
杉浦 利用者アンケートでは、温熱環境や音などに関する質問項目のほとんどで「快適性が向上した」と評価する声が多くを占めました。1つだけ当初の評判が良くなかったのが照明です。ZEB化したオフィスでは、以前に比べて照度を抑えたアンビエント照明と、タスクライトを組み合わせています。これに対し、以前のように室内全体を明るく照らしたほうがよいという意見が出ていました。

片山 茂克氏(ダイダン四国支店技術部管理課担当部長。以下、片山) その点、エネフィス四国では白を基調とした内装と相まって明るい印象を受けます。エネフィス九州の経験を踏まえ、廊下を暗めに抑えて執務室が明るく感じるようにするといった工夫もしています。
運用ありきのZEBとしていることもエネフィス四国の特徴です。クラウドを用いた自動制御システムを採用し、使用状況に即して可能な限りエネルギーを削減しています。例えば、タイムスケジュールに応じて点灯するエントランスの照明を休日は消灯したり、部署によって異なる帰宅時間に合わせて照明やエアコンを制御したりするなど、細かく調整することができます。入居後の6月から月1回程度の頻度で運用会議を開き、改善点を協議しながらより適切な運用方法を目指しています。
自動制御システムは遠隔でコントロールでき、容易にプログラムを改変できるのもメリットです。運用状況に応じてきめ細かに調整していくことで、利用者が我慢せずに消費エネルギーを削減できる状態を生み出しています。
