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どのレベルのZEBを目指すか

自社建物での取り組みとは別に、他社にZEBを提案する際にはどのようにアピールしているのでしょうか。

杉浦 多くのクライアントにとって最初のハードルになるのはコストです。ZEBには、正味のZEBからNearly ZEB、ZEB Ready、ZEB Orientedまで複数のレベルが用意されています。ZEBにするには大容量の太陽光発電が必須ですが、売電価格が低下していく状況を考えると投資コストを売電だけで回収するのは今後難しくなるかもしれません。クライアントの要望に基づき、どのレベルのZEBを目指すのかを明確にしていくことが大切になります。

 クライアントからZEB化を求められる要因は2種類あります。全体の2割程度は、エネフィス四国のように自社ビルを建設する場合です。環境にやさしい会社であることをアピールするために、太陽光、地中熱、井戸水、風力などいろいろな設備を積極的に取り入れていくことが多いです。

 残りの8割程度は、ZEBの補助金利用を前提に考える場合です。補助金を得られれば、一般的なビルよりも建設コストを抑えることが可能になるケースもあります。ただ、これからはコスト面だけでなく、ZEB化による快適性の向上やBCP対策といった面の訴求がより重要になるでしょう。私たちも、上下の温度差で足元が冷えないため快適性が高まり健康増進につながることや、災害時に空調が止まっても室温が急激に変化しないこと、太陽光発電をBCPに役立てられることなどのメリットをアピールしています。

ZEBに対する発注者の反応はどうでしょう?

杉浦 エネフィス九州を建設した16年当時は「ZEBってなに?」という雰囲気でしたが、最近は「ああZEBね」と分かる人が増えてきました。世の中全体で「ZEBをつくりたい」という意識が少しずつ高まっているように感じます。ZEBを条件とする官公庁物件が少しずつ出ていますし、完成後の運用を含めてZEBに詳しい設備会社を求めるクライアントも登場しています。

 SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)に関心を持つ企業の多くは、ZEBを理解しています。とはいえ建物の用途によって、ZEBで見込めるメリットは異なります。建設コストのアップ分を賃料に反映しにくいテナントビル、空調がしっかり利くことを求めるホテルや百貨店などは、今のところZEBに積極的に取り組みにくい状況ではないでしょうか。

設計事務所から見たZEBへのニーズと課題は何ですか。

甘粕 官公庁のプロポーザルの応募要件にZEBプランナー登録を求められる例もあります。

 テナントビルについては、賃料の回収を含めたビジネスモデルの構築を考えなくてはなりません。高層化すると床面積に比して有効な太陽光発電の設置が難しくなることも課題です。

 現在、多くのオフィスは防火性や耐震性を基準に選ばれています。今後は、それがZEBへと広がっていくでしょう。そのときに設計者がZEBを供給できる体制を整えているかが問われるはずです。

左からダイダンの片山氏、杉浦氏、NTTファシリティーズの甘粕氏(写真:省エネNext)
左からダイダンの片山氏、杉浦氏、NTTファシリティーズの甘粕氏(写真:省エネNext)
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