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井水と太陽熱を空調熱源に利用

 このようにパッシブなエネルギー制御の工夫を施した建築に、井水や太陽などの自然エネルギーを活用した意欲的な設備システムを盛り込んだ。

 最も大きなエネルギーを費やす空調は、井水と太陽熱を冷温熱源に用いて効率的なシステムを構築した。太陽熱は、屋上に設置したパネルを通じて集熱し、8m3の貯湯槽を持つ太陽熱蓄熱槽を介して冬期には暖房の熱源に、夏期には除湿を行うデシカントローターの乾燥にそれぞれ用いる。十分な太陽熱を得られない日は、バックアップ用のエコキュート(ヒートポンプ式給湯器)を使用する。

 冷暖房の仕組みはこうだ。ショールームや会議室が入る1階では、井水熱源ヒートポンプエアコンによる冷暖房を採用した。執務エリアとなる2階では、より快適な環境を得るために天井と床面を利用した冷暖房方式を取り入れた。

 主な冷房は、インテリアゾーン(建物の中央部)の天井に設けたパネルを用いた放射冷房で賄う。井水で18℃に冷やした熱源水を放射パネルに通し、パネル表面を20℃程度に冷やすというイメージだ。さらにペリメーターゾーン(建物の外周部)ではデシカントローターで除湿した空気を窓際のチルドビームに送り、ここで室内空気と熱交換した上で天井から窓ガラス面へと空気を落として窓回りの熱負荷を減らす。

執務エリアの天井。発光ダイオード(LED)照明を組み込んだ放射パネル。窓側に並ぶチルドビームから除湿空気が窓下へと流れ出る(写真:守山 久子)
執務エリアの天井。発光ダイオード(LED)照明を組み込んだ放射パネル。窓側に並ぶチルドビームから除湿空気が窓下へと流れ出る(写真:守山 久子)
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 暖房は、ヒートポンプマルチエアコンから床下に送る暖気を利用する。エアコンの熱源は井水と太陽熱だ。井水で熱交換して11℃から16℃に温めた熱源水を、さらに太陽集熱で21℃に温める。

 エアコンからの暖気は、床下空間を断熱材で区切ってペリメーターゾーンとインテリアゾーンを分けて室内に送り出す。その際、ペリメーターゾーンでは床の吹き出し口を利用するのに対し、インテリアゾーンではカーペット床から染み出させる方式を採用した。テクネット(東京・中央)の販売するシステムで、カーペットの繊維の隙間からゆっくりと暖気が室内側へ抜けて、穏やかな頭寒足熱の状態を生み出すという。床の空調は、冷房の立ち上げ時にも活用する。

 放射冷房を採用する際には、パネル回りの結露を防ぐための湿度管理が欠かせない。そこで、冷房時には除湿(デシカント)のローター、暖房時には全熱交換器機能を担うマルチモードローター空調機(荏原実業製)を設置した。「ローターの回転数を変化させることによって1台で2つの機能を満たすようにしたもの。国内で初めての採用事例だ」(今別府氏)。前述したように、除湿を行うデシカントローターの乾燥にも、太陽熱を利用している。

断面パース(資料:テラル)
断面パース(資料:テラル)
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自然エネルギー利用システムのイメージ図(資料:テラル)
自然エネルギー利用システムのイメージ図(資料:テラル)
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 太陽のエネルギーは、その他の設備でも活用した。

 太陽熱集熱パネルは、1階の来客用トイレの給湯にも利用する。「太陽熱給湯によって、1次エネルギー消費量を2%程度削減できる。これは、『創エネを除く1次エネルギー消費量の削減率50%以上』というZEBの基準を達成するための最終的な調整に役立った」と今別府氏は話す。

 太陽光発電システムは屋根の上に出力57.75kWのパネルを設置した。屋根はコストなどの制約から軽量な非歩行用の仕様にしている。構造上の負担も勘案して、太陽熱集熱パネルと合わせて最大限可能な数量を載せた格好だ。101.2kWhのリチウムイオン蓄電池と組み合わせて天候が悪い日でも電力を安定供給できるようにした。電力は基本的に本社事務所棟で利用し、余った分は工場棟で使う。

 このほか試験的に、大学との共同研究を生かした技術も導入している。1つは井水を用いたマイクロ水力発電で、水車ユニットを発展させた技術を利用した。もう1つは小型風力発電で、鳥の翼の動きを風車の羽根車の形に反映させて効率向上を目指したものだ。