全2884文字
PR

 土木工事を手掛けるアサヒエンジニアリング(浜松市)の新社屋が2018年11月に完成した。1次エネルギー消費量を正味ゼロとする「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」の建物だ。

 延べ面積600m2の建物は、シンプルな長方形平面を持つ2階建て。東南側に配したエントランスまわりの大きなガラス面が、凹凸のない箱型の外観にアクセントを与える。事務所スペースと応接室を2階に配置し、大会議室、作業員休憩室のほかロッカールームや書庫といったバックヤードを1階にまとめている。約30人の従業員が勤務するが、昼間は外に出ている人も多い。

アサヒエンジニアリング社屋の南東側外観。入り口の階段ホールまわりに大きな開口を設けた(写真:須山建設)
アサヒエンジニアリング社屋の南東側外観。入り口の階段ホールまわりに大きな開口を設けた(写真:須山建設)
[画像のクリックで拡大表示]
2階の階段ホール。日差しを取り込んだ明るい空間を通って事務所スペースに向かう(写真:須山建設)
2階の階段ホール。日差しを取り込んだ明るい空間を通って事務所スペースに向かう(写真:須山建設)
[画像のクリックで拡大表示]

 「当社は1985年に創業し、倉庫を改造したオフィスを長く使っていた。執務環境は厳しく、夏はエアコンをかけたうえで扇風機を回し、冬はエアコンにストーブという状態。それに比べると、新社屋の環境は劇的に向上した。2階に事務所があると夏暑いのではというイメージを持っていたが、断熱性能が高いのでそういう感覚は全くない。消費電力も大幅に下がった」。アサヒエンジニアリングの金原秀明代表取締役は、新社屋の感想をそう語る。

 同社は、浜松市に拠点を置く総合建設会社・須山建設のグループ会社の1つで、地表を掘削せずに埋設管を敷設する「推進工事」に特化した事業を展開している。新社屋の設計と施工は、須山建設が担当した。

 新社屋は、JR浜松駅から北西に6kmほどの距離にある航空自衛隊浜松基地の南西側に位置する。敷地はもともと須山建設の従業員用宿舎などが建っていた区画を再構成したものだ。

 新社屋とその西側に並ぶ倉庫の屋根全面に合計59.78kWの太陽光発電パネル(パワーコンディショナー38.5kW)を設置して、創エネルギーを含めた1次エネルギー消費量削減率を144%まで高めた。創エネルギーを除く削減率は61%だ。

 「これからのZEBのプロトタイプとなる建物を目指して、一般的な技術を用いた普及版ZEB設計の確立を目指した」(設計・施工を手掛けた須山建設の小野寺司設計・調達ブロック設計グループ課長)。須山建設は以前から省エネやBCP(事業継続計画)を視野に入れた提案を積極的に行ってきたが、ZEBを手掛けた経験はなかった。グループ会社で新社屋建設の計画が持ち上がった機をとらえて、初めてのZEBに取り組んだ。

 設計に際して掲げた目標はいくつかある。創エネルギーを含めた1次エネルギー消費量削減率100%を超える完全ZEBの達成やZEB補助金を得ることに加えて、基地を発着する飛行機の騒音への対策も必須だった。費用対効果を勘案しつつ、建物の外皮性能の向上、高効率な設備の採用、大容量の創エネを組み合わせた建物とした。

1階平面図
1階平面図
[画像のクリックで拡大表示]
2階平面図
2階平面図
[画像のクリックで拡大表示]
アサヒエンジニアリング社屋の1階、2階平面図(資料:須山建設)

 このうち外皮仕様は次のように設定している。

 最も大きな日射を受ける屋根まわりでは3層の断熱を施した。ダブル折板の間に厚さ100mmのグラスウールを充填したうえ厚さ65mmのウレタンを吹き付け、天井の上には厚さ100mmのグラスウールを敷いた。ALC版仕上げの外壁面は、スタッド内に厚さ65mmでウレタンを吹き付けた。床下には厚さ50mmの押し出し法ポリスチレンフォームを施工した。窓は、一般的なビル用のアルミサッシを用いてLow-Eアルゴンガス入り複層ガラスをはめ込んだ。

 須山建設が手掛ける通常のビルに比べて重装備とした断熱の仕様は、防音性能の向上にも寄与する。「以前の建物ではよく聞こえていた飛行機の音も、新社屋では気にならない」と金原代表取締役は評価する。実際、平日午後の取材中も飛行機の音にはほとんど気づかなかった。