近畿産業信用組合新本店(大阪市中央区)は創エネを含んだ1次エネルギー削減率が61%となる高層ビルのZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)だ。まだ希少な存在といえる高層ビルのZEB化の取り組みについて、前編に続き、近畿産業信用組合の松岡富雄氏と新井成哲氏、設計・施工を担った大成建設の平井浩之氏と根本昌徳氏、湯浅孝氏にプロジェクトを解説してもらう。
近畿産業信用組合新本店は地上18階建て、高さ78mの高層ZEBです。どのような経緯で計画を進めたのでしょうか。
松岡 富雄氏(近畿産業信用組合総務部部長) 大阪市天王寺区にあった旧本店の建物が老朽化し手狭になっていたので、北浜(大阪市中央区)の現在地に新本店ビルを新築して分散していた本部機能を集約しました。
計画に当たっては、2015年10月に建設会社を対象とする設計・施工一括発注方式のコンペを実施しました。その結果、「温故創新」というテーマを掲げた大成建設の提案が私たちの心をわしづかみにしたのです。100年先の未来を見据えて、地球環境に優しい先導的なビルを一緒につくろうという提案でした。
新井 成哲氏(近畿産業信用組合経営企画部次長) 本店の移転は50年に一度あるかどうかのビッグプロジェクトです。北浜のランドマークとなり、公共性の高い企業としての存在意義を見いだせるものにしたいという思いがありました。
プロジェクトマネジメント会社と時間をかけて議論しながらコンペの要綱を作成し、設計のテーマに「省エネ」と「ランニングコストを低減できる環境建築」を入れました。屋上緑化や発光ダイオード(LED)照明、太陽光発電を導入するといった当時の一般的なエコ対策だけでなく、「着工時に導入可能性のある技術を提案してください」というフレーズも盛り込んだのです。
こうした要望に対して唯一、ZEBの実現をうたう提案を示したのが大成建設でした。当時は私たちもZEBについてよく知らなかったのですが、経営陣は、これは新本店ビルとして強力なアピールポイントになると高く評価しました。
平井 浩之氏(大成建設関西支店設計部長) 近畿産業信用組合は、信用組合の中でも預金規模が大きく先端的な取り組みをしています。そうした特性を反映し、新本店をほかにない建物にしようと考えました。象徴性を備えた建物とするために、総合設計制度を利用して78mの高さを確保しました。足元の公開空地は緑の広場とし、近隣との絆を育むように促しています。
建物を高くすることは、ZEB化の面では不利になります。しかし、だからといって建物の制約が増えて快適性や使い勝手が減じてしまっては本末転倒です。ZEBを実現するための建築を目指すのではなく、まず人が滞在する建築としての在り方を考えて、それが結果としてZEBに結び付くという設計の進め方が理想だと思います。
ZEBの設計では窓を小さくして熱負荷を減らすのが一般的な考え方ですが、ここでは発想を逆転させ、柱と梁(はり)以外は窓とする開放的なビルを考えました。北浜には石張りの重厚な建築が多いので、こうした伝統的要素を踏襲しつつ、その躯体の外側をガラスで覆うことで革新的なイメージを与えました。ガラスと躯体(くたい)の間の空気が動いていく、いわば呼吸するダブルスキンは熱負荷の低減にも寄与しています。
根本 昌徳氏(大成建設エネルギー本部ZEB・スマートコミュニティ部スマートコミュニティ推進室長) 国が現在のZEBの定義を示したのはコンペ後の15年12月です。当社では14年、技術センター内にZEB実証棟を建設するなどZEBへの取り組みを既に始めていました。近畿産業信用組合新本店は創生期の計画といえます。私たちは省エネ化のアイテムこそ用意していましたが、はたしてどこまでやれば本当に1次エネルギー消費量を50%以上削減できるのか、手探りで設計を進めました。
そもそもコンペに提案するときも「ZEBを前面に押し出して大丈夫だろうか」という不安がありました。一般的にはコストが優先されるので、いくら性能が良くても初期投資が高くなる提案は却下されるかもしれません。でもいざフタを開けてみると、ZEBという点がストレートに評価されました。
平井 私たちの提案は床面積も与条件をオーバーしていました。将来の対応を視野に入れると、ある程度の床面積の余裕を残しておくべきではないかという提案ですが、その分工事費は高くなります。一方、ZEB化によってランニングコストを低く抑えられるので、コストアップ分は30年で回収できるという資料も作成してプレゼンテーションしました。