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 住宅で使われる一般的な技術や材料を用いて、木造のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現した「ザイソウ正木ビル」。前編に続き、関係者にプロジェクトを解説してもらう。

 ザイソウ正木ビル(名古屋市中区)はザイソウハウスの本社ビルですね。移転の経緯をお話しください。

伊藤 卓哉氏(ザイソウハウス取締役専務執行役員) グループ会社が建設したビル全体に賃貸で入居しています。もともと周辺の土地は材惣DMBホールディングスグループが所有しており、以前は私たちもそのなかのビルに居を構えていました。その後、いったん熱田神社に近い賃貸ビル(名古屋市熱田区)に移転しましたが、手狭になったので戻ってきました。

ザイソウ正木ビルの北東外観(写真:材惣DMBホールディングス)
ザイソウ正木ビルの北東外観(写真:材惣DMBホールディングス)
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 建設に当たっては、当初から木造のZEBを目指したのですか。

鈴木 興太郎氏(材惣DMBホールディングス常務取締役・事業統括本部副本部長) 土地活用の面では、階数の高いランドマークとなる建物とする可能性もありました。でも今日の時代背景を考えると、環境に配慮し、木材を扱う当社グループのPRにもつながる木造にするのがよいのではないかと判断しました。今後展開を目指す非住宅分野の木造建築の実績にしたいという狙いもあります。

伊藤 ZEBにするとイニシャルコストは高くなります。それでも、光熱費の削減によって長い目でコスト回収しながら、環境配慮という会社の方向性を示すためにZEBを目指すことにしました。

 建物は延べ面積500m2以下の3階建てで、高さ13m以下・軒高9m以下という規模です。

河辺 浩幸氏(加藤設計第1設計室室長) 建築主側から提示された条件を踏まえて、耐火・準耐火建築物としなくてよい規模に収めました。耐火・準耐火建築物は、一般的な材料を用いると木を被覆する必要があり、どうしても木造らしさが失われてしまいます。今回は材木を扱うグループの本社なので、できれば木を使ったことが伝わる建物にしたいと考えました。

 ZEBを目指すからには、いくつかランクがあるなかで最も水準の高い完全ZEB(年間の1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナス)を目標に据えました。ZEBにする場合、屋上に多くの太陽光発電パネルを載せられる平屋建てが有利です。ただこれまでの経験上、3階建てなら比較的容易にNearly ZEBにはできます。初期にシミュレーションした結果、もう少し頑張れば完全ZEBも達成できると判断しました。

 普通の製品や技術を使って実現するのが、本来のZEBのあり方だと思っています。今後の普及を見据えた建物をつくるという目標を建築主側と共有していたこともあり、汎用技術を用いた設計としました。

鈴木 一部にCLT(直交集成板)を使っていますが、基本的には一般流通品を用いて、普通にプレカット加工できる内容の計画としています。ZEB化に際しても、ごく基本的な内容を突き詰めた格好です。

河辺 もっと面積の大きな建物の場合はデシカント空調などの導入も考えますが、500m2弱という今回の規模では費用対効果を考えると採用は難しい。まず外皮の高断熱化を徹底し、足りない部分を効率的な設備機器で補い、最後に創エネを加えるという考え方で設計を組み立てています。

建設中のザイソウ正木ビル。屋根全面に23.7kWの太陽光発電パネルを並べた(写真:材惣DMBホールディングス)
建設中のザイソウ正木ビル。屋根全面に23.7kWの太陽光発電パネルを並べた(写真:材惣DMBホールディングス)
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 実際には、住宅のつくり方をほぼ踏襲しました。住宅はオフィスに比べて格段に高い断熱・気密性能を確保し得るので、それが合理的といえます。

 これまでも省エネ建築やZEBを多く手掛けているのですか?

河辺 5、6年前から設計事務所として省エネ建築へのシフトを試み始めました。現時点で省エネ基準適合義務の対象となる床面積2000m2以上の建築物の省エネ計算も自社で手掛けています。2013年5月に完成した鉄筋コンクリート造の3階建てのオフィスビルが最初に設計した本格的な省エネビルで、建築環境・省エネルギー機構のサステナブル建築物奨励賞を受賞しました。ZEBは今回が4事例目ですが、木造のZEBも完全ZEBも初めてです。