快適性と省エネのバランスを意識
「工期などの制約から、手間のかかる現場製作をできるだけ避け、汎用性の高い建材や製品を利用した」。設計を担当した久慈設計(盛岡市)の吉田航・建築設計部主任主査は、計画の前提をそう話す。
建物は、間口24.5m、奥行き22.5mのシンプルな箱型形状とした。1階は駐車場スペース、2階から5階までの4フロアに8社分のテナントスペースを用意した。5階建てのビルが隣接する西北面は開口部を極力減らし、エレベーターや階段室、トイレなどのコアスペースを配置した。
東南側に確保したテナントスペースは柱によって3分割でき、3社に対応する。「テナントスペースの窓は3面に確保した。明るさなどの環境面でも、できるだけテナントの間で居住環境に差が生じないようにした。一部の窓を引き違いにして、風を入れたいというニーズにも対応している」(吉田氏)
1階は、エントランスや階段室などの壁まわりと駐車場の天井面に断熱材を施した。岩手地所が住宅レベルの断熱性を求めたため、住宅金融支援機構のフラット35Sに対応した断熱等性能等級4相当の外皮平均熱貫流率(UA値)を目指した。
外壁と屋根の断熱材には、それぞれ厚さ70mm、135mmの硬質ウレタンフォームを吹き付けた。北上市のような寒冷な地域のオフィスビルでは「外壁50mm、屋根50mm〜70mm程度の厚さで断熱することが多い」(吉田氏)ということから、強化仕様といえる。窓には厚さ12mmの空気層を持つLow-E複層ガラスのビル用アルミサッシを採用した。
外皮性能の指標となるPAL*(パルスター)の削減率「BPI」は0.59となり、基準PAL*を大きく下回った。こうした外皮性能の向上も相まって、空調の1次エネルギー消費量は年間の基準値657MJ/m2から設計値300MJ/m2へと約65%の削減効果を得ている。
南西面のカーテンウオールの外側には、西日を遮蔽するために既製品の縦型フィンを設置した。冷房負荷を抑える役割を果たす。
設備でも、一般的な製品を組み合わせて高効率化を図った。例えば空調には寒冷地タイプの高効率ビル用マルチエアコンを用い、集中コントローラーで一括管理できるようにした。「エアコンの入り切りはテナント企業が行うが、エネルギーの使用状況は中央管理室でチェックする。使用量が多い場合には空調の使い方などをアドバイスしていくことになる」(小原氏)
空調に関する一工夫もある。寒冷地タイプのエアコンを選ぶ際に、マイナス15度まで対応する機種とマイナス25度まで対応する機種のうち、前者を採用した。特に寒くなった場合を考えるとマイナス25度タイプのほうが無難だが、ZEB化に当たってはオーバースペックにしないことも大切だ。ここではマイナス15度タイプでも十分な室温を保てることを確認し、容量のスリム化を図った。
一方で、空調の対象エリアにはトイレなどの共用部も含めた。居室以外も空調範囲とすれば1次エネルギー消費量は増えてしまうが、利用者にとっての快適性の向上を優先させた。「ZEBにするために我慢することがないように……」(志田文子・久慈設計執行役員設備設計部部長)という考え方を反映した一例だ。
岩手地所北上駅前ビルの建築概要データ
- 所在地:岩手県北上市
- 地域区分:3地域
- 建物用途:事務所等
- 構造・階数:鉄骨造・地上5階
- 延べ面積:2764m2
- 発注者:岩手地所
- 設計者:久慈設計
- 施工者:小原建設
- 完成:2020年1月