建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)が改正され、2021年4月(予定)の完全施行に向けて順次施行される。単なる省エネにとどまらず、いかに快適性や不動産価値の向上を見据えていくか。国土交通省の委員会で法改正に向けた議論を取りまとめた早稲田大学教授の田辺新一氏が改正建築物省エネ法が目指す方向性を語る。
2019年5月に建築物省エネ法が改正されました。まず、非住宅建築物について主な改正内容を教えてください。
大きくは、19年11月16日施行分と21年4月施行予定分に分かれています。
19年11月施行分の1つは、複数の建築物の間でエネルギーの融通をつけやすくする「複数建築物の性能向上計画認定」の創設です。大きな街区でホテルやオフィスを複合開発する計画などを想定したもので、容積率特例の対象になります。このほかマンションの省エネ計画届出制度における審査の合理化なども施行しました。
21年4月施行予定分で大きいのは、省エネ基準への適合義務化の対象の拡大です。延べ面積2000m2以上の大規模な非住宅については、一足早い17年4月1日に基準適合を義務化しました。今回は300m2以上という中規模の非住宅が義務化の対象に加わります。これまでは省エネ適合性判定に縁のなかった小規模な設計事務所も手掛ける可能性が高くなるので、内容を理解しておく必要があります。
義務化の対象拡大により、どの程度の影響があるのでしょうか。
17年度のデータでは、国内で建設される大規模な非住宅のエネルギー消費量は新築全体の約36%を占めています。これに中規模の非住宅を加えると約52%になり、非住宅に限れば義務化対象の建築物が9割を占める計算です。
なお、既に300m2以上の中規模建築物の91%は省エネ基準を満たしていますが、それで十分とはいえません。国のエネルギー基本計画では30年までにエネルギー消費量を5030万kl削減する目標を掲げ、非住宅の新築で332.3万klの削減を目指しています。これを達成しないと、30年の温室効果ガス排出量を13年比で26%削減するというパリ協定の目標は実現できません。
再生可能エネルギーを除く一次エネルギー消費量の削減率50%以上となる「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」など、省エネ基準の一歩先のレベルを積極的に目指していただきたいと思います。