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 建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)が改正され、2021年4月(予定)の完全施行に向けて順次施行される。単なる省エネにとどまらず、いかに快適性や不動産価値の向上を見据えていくか。国土交通省の委員会で法改正に向けた議論を取りまとめた早稲田大学教授の田辺新一氏が改正建築物省エネ法が目指す方向性を語る。

田辺 新一|Shin-ichi Tanabe 1958年福岡県生まれ。80年早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了、工学博士、84〜86年デンマーク工科大学、92〜93年カリフォルニア大学 バークレー校。2001年から早稲田大学創造理工学部建築学科教授。専門は建築環境学。空気調和・衛生工学会会長、日本学術会議会員、国土交通省社会資本整備審議会臨時委員など(写真 : 大久保 惠造)
田辺 新一|Shin-ichi Tanabe 1958年福岡県生まれ。80年早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了、工学博士、84〜86年デンマーク工科大学、92〜93年カリフォルニア大学 バークレー校。2001年から早稲田大学創造理工学部建築学科教授。専門は建築環境学。空気調和・衛生工学会会長、日本学術会議会員、国土交通省社会資本整備審議会臨時委員など(写真 : 大久保 惠造)
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2019年5月に建築物省エネ法が改正されました。まず、非住宅建築物について主な改正内容を教えてください。

 大きくは、19年11月16日施行分と21年4月施行予定分に分かれています。

 19年11月施行分の1つは、複数の建築物の間でエネルギーの融通をつけやすくする「複数建築物の性能向上計画認定」の創設です。大きな街区でホテルやオフィスを複合開発する計画などを想定したもので、容積率特例の対象になります。このほかマンションの省エネ計画届出制度における審査の合理化なども施行しました。

 21年4月施行予定分で大きいのは、省エネ基準への適合義務化の対象の拡大です。延べ面積2000m2以上の大規模な非住宅については、一足早い17年4月1日に基準適合を義務化しました。今回は300m2以上という中規模の非住宅が義務化の対象に加わります。これまでは省エネ適合性判定に縁のなかった小規模な設計事務所も手掛ける可能性が高くなるので、内容を理解しておく必要があります。

改正建築物省エネ法は段階的に施行
改正建築物省エネ法は段階的に施行
2019年5月に公布された改正建築物省エネ法の施行スケジュール。大きくは19年11月と21年4月(予定)に施行される。非住宅建築物では、省エネ基準への適合義務化を延べ面積300㎡以上に拡大。300㎡未満の非住宅・住宅には説明義務を創設した(資料:国土交通省「改正建築物省エネ法の各措置の内容とポイント」を基に作成)
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義務化の対象拡大により、どの程度の影響があるのでしょうか。

 17年度のデータでは、国内で建設される大規模な非住宅のエネルギー消費量は新築全体の約36%を占めています。これに中規模の非住宅を加えると約52%になり、非住宅に限れば義務化対象の建築物が9割を占める計算です。

 なお、既に300m2以上の中規模建築物の91%は省エネ基準を満たしていますが、それで十分とはいえません。国のエネルギー基本計画では30年までにエネルギー消費量を5030万kl削減する目標を掲げ、非住宅の新築で332.3万klの削減を目指しています。これを達成しないと、30年の温室効果ガス排出量を13年比で26%削減するというパリ協定の目標は実現できません。

 再生可能エネルギーを除く一次エネルギー消費量の削減率50%以上となる「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」など、省エネ基準の一歩先のレベルを積極的に目指していただきたいと思います。

適合義務の非住宅がエネルギー消費量の過半を占める
適合義務の非住宅がエネルギー消費量の過半を占める
▶「2017エネルギー・経済統計要覧」「2017年度建築着工統計」より建築物の平均エネルギー原単位878MJ /㎡・年、住宅の平均エネルギー原単位344MJ /㎡・年として推計
年間の着工棟数と、それらのエネルギー消費量の比率。着工件数の比率では新築全体の3.4%に過ぎない「中大規模の非住宅建築物」が、エネルギー消費量では52.2%を占める。逆に「小規模の住宅」は、84.0%の着工棟数に対し、エネルギー消費量は28.7%にとどまる (資料:国土交通省「改正建築物省エネ法の各措置の内容とポイント」を基に作成)
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削減目標の半分を建物が担う
削減目標の半分を建物が担う
パリ協定の実現に向けたエネルギー消費量の削減目標。5030万kl削減という全体目標に対し、業務部門(非住宅建築物)と家庭部門(住宅)の目標値は47%を占める。非住宅・住宅の新築の合計は全体の13%にとどまり、既存建築物の断熱改修や設備の高効率化も必須となる (資料 : 国土交通省「改正建築物省エネ法の各措置の内容とポイント」を基に作成)
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