テントビルのオーナーにとって、コストの掛かるZEB改修はハードルが高い。改修後、主にテナントが光熱費の削減のメリットを享受できる点も悩ましい。前編に続き、「HOWAビル津中央」の事例からZEB改修の意義を探る。
HOWAビル津中央(津市)では、1991年に建てられたテナントビルをZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)に改修しました。どのようなきっかけでZEB化に取り組んだのでしょうか。
園田修一氏(宝輪経営企画部・CSR推進室・教育センター・不動産管理部顧問、監査役) 建物が完成してから27年ほどが経ち、空調設備の更新時期が来ていました。テナントごとに工事を進める方法もありましたが、三菱電機ビルテクノサービスからZEB改修の提案を受け、経済産業省のZEB実証事業に採択されたために実施しました。
空調設備を高効率の機器に更新し、照明設備を発光ダイオード(LED)に取り替えました。共用部分の照明は既にLED化していたので、テナント部分が対象です。さらに4.5kWの太陽光発電設備を屋上に設置しました。BEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)による集中制御や見える化も導入しています。
前川聡史氏(三菱電機ビルテクノサービス中部支社栄支店営業課営業一係係長) 三菱電機グループでは、三菱電機が電機会社で初めてZEBプランナーに登録しています。18年以降およそ10件ZEBに携わっていますが、既存のテナントビルはHOWAビル津中央が初めてでした。
既存建物を調査して、空調と照明の高効率化などを図ればZEB化できると判断しました。太陽光発電設備がなくてもZEBの基準を満たしますが、ZEB実証事業の補助金に採択されやすいようにするため設置しました。
園田 太陽光発電は共用部の照明に用いています。入居テナントからは、電気代が下がった点のほか室内環境が良くなったことも評価いただいています。
ZEB改修では何が大変でしたか。
園田 BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)評価を受けるための申請に苦労しました。テナントビルでは、入居した企業が壁の位置や空調機を変更することが珍しくありません。新築時の竣工図と現状とが必ずしも一致していなかったので、BELSの審査過程でなぜ食い違いが生じているかを説明するのが大変でした。ZEBの補助金を受ける際にはBELS評価を得ていることが前提だったので、評価書が交付されることを確認するまでは心配でした。
ZEB化に際してBEMSや高効率な設備を導入したため、一般的な設備改修に比べてコストが高くなります。それらの追加分を含めた総工費の6割強を補助金で賄いました。
所有しているほかの建物でもZEBの実施例はありますか。
園田 このHOWAビル津中央のほかに、宝輪津営業所(津市)でも同時期にZEB改修を実施しています。ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業(環境省)の補助金を受けて改修しました。
前川 宝輪津営業所は日射熱の負荷が大きいガラス張りの建物でしたが、高性能熱反射ガラスを使い、日射を遮る大きな庇が一部突き出していたのでZEB化に有利に働きました。照明と空調のほか給湯器にも高効率の機器を導入し、駐車場に15kWの太陽光発電設備を設けてNearly ZEBとしています。