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井水を熱源に活用

エクスチェンジ棟は年間の1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスになるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)です。計画では、太陽や風のほかに井水も活用しています。

今林憲一氏(前田建設工業建築事業本部設備設計部設備第3グループグループ長) 豊富な井戸水を有している地域に立地するので、井水を建物設備の熱源に活用しました。

 敷地の南北に2カ所の井戸を掘り、1つ目の井戸でくみ上げた水から採熱して2つ目の井戸に戻しています。空調運転時の外気の平均温度は四季の変化に応じて10度以下から30度近くまで変化しますが、井水の温度は年間を通じてほぼ17度を保っています。採熱水の温度も夏の冷房時に18度から21度、冬の暖房時はほぼ15度で推移し、熱源の負荷低減に寄与しています。

そのほかにも多様な設備技術を導入していますね。

今林 空調設備では、例えば3階に、デッキスラブを利用した天井放射空調を採用しました。金属製のパネルに冷温水配管を通し、アンビエント空調として利用します。デザインと施工の融合も設計テーマの1つに据えていたので、天井の放射パネルはワンタッチではめ込められるシステムにしています。

 このほかにも多様な取り組みをしました。建物デザインとの調和を意識して六角形に配したアンビエント&タスク照明や、チラー(冷却水循環装置)の温度などに連動させて季節に応じて自動開閉する内外ブラインド、空気温度の安定した免震ピットに空調室外機を置くことによる熱源の高効率化などです。水素を用いたハイブリッド蓄電による直流給電システムなど、試験的な試みもしています。

屋根と外壁に設けた太陽光発電はどのように利用していますか。

綱川 合計で約132kWのパネルを設置して、全てICIラボ内の施設で自家消費しています。蓄電池も用意していますが、これは実験装置に対する電源保証の意味合いが強い。巨大な機器を用いた実験を実施するため、多量の電力を消費するのです。

今林 南側の外壁に設けた太陽光パネルの発電量は水景の反射も利用することを期待しています。年間の実測値を調べたところ、反射効果がない場合を計算した値に比べて発電量は3.2%向上しました。

綱川 いずれ、隣接する「ICIキャンプ」を含めて電力を融通することも考えています。ICIキャンプは廃校となった小学校の建物を再生した研修や交流の施設で、ICIラボから1年遅い19年秋にオープンしました。意匠設計には、マウントフジアーキテクツスタジオ(東京都渋谷区)に参画してもらっています。

 今後は、運用方法を調整しながら、ICIラボとICIキャンプを連動させた総合イノベーションプラットフォームとして機能強化していく計画です。

前田建設工業建築事業本部の綱川隆司・ソリューション推進設計部BIMマネージメントセンターセンター長(右)と今林憲一・設備設計部設備第3グループグループ長(写真:守山 久子)
前田建設工業建築事業本部の綱川隆司・ソリューション推進設計部BIMマネージメントセンターセンター長(右)と今林憲一・設備設計部設備第3グループグループ長(写真:守山 久子)
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