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久留米市環境部庁舎(福岡県久留米市)は国内で初めて、既存の公共建物を改修して「1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスになるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」とする事例となった。計画の出発点は、投資バランスを踏まえて目標となる省エネレベルを設定する「ZEB化可能性調査」だ。前編に続き、合理的なZEBを実現するためのポイントを関係者に聞いた。

国内初の公共の既存建築改修によるZEB事例となった久留米市環境部庁舎(写真:守山 久子)
国内初の公共の既存建築改修によるZEB事例となった久留米市環境部庁舎(写真:守山 久子)
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久留米市環境部庁舎では、築30年近い建物をZEBに改修しました。どのような経緯でZEB化を進めたのでしょうか。

境邦匡氏(久留米市環境部環境政策課事務主査):久留米市は2018年度に策定した「久留米市地球温暖化対策実行計画」で、市の事務事業に伴って排出する温室効果ガスを30年度までに40%削減するという目標を掲げています。この目標を達成するには、市有の施設で大幅な温室効果ガス削減を図る必要があります。財政状況が厳しい中、新築は難しいので既存建物への対策が欠かせません。

 そこで19年度に、既存の4施設を対象に「ZEB化可能性調査」を実施しました。今後の展開を見据えて、30年までに空調の改修を予定している市有施設から用途も規模も異なる施設をピックアップしています。

 施設の現状を調査したうえで、ZEB Ready(再生可能エネルギーを含む1次エネルギー消費量の削減率が75%未満)を満たすために必要な改修内容や、Nearly ZEB(再生可能エネルギーを含む1次エネルギー消費量の削減率が75%以上)またはZEB(再生可能エネルギーを含む1次エネルギー消費量の削減率が100%以上)を満たすために必要な再生可能エネルギーの導入量を検討します。CO2削減目標を満たすと同時に、国庫補助を利用した投資回収期間を踏まえて、より最適な方法は何かを考えていく。その結果、環境部庁舎ではZEBが可能と判断しました。

赤坂慎一郎氏(久留米市都市建設部建築課計画チーム課長補佐):熱橋の生じやすい鉄骨造の建物で、再生可能エネルギーを含む1次エネルギー消費量の削減率が100%以上のZEBをめざすのは難しい状況です。環境部庁舎は鉄筋コンクリート造なのでZEB化には有利でした。

清水淳氏(久留米市都市建設部設備課計画チーム課長補佐):ZEB化可能性調査を実施する前から、環境部と都市建設部が共同でZEBの研究をしていました。環境部は環境政策と施設管理を、都市建設部は営繕を担当する部局です。

 ところがコンサルタント会社に相談しても、返ってくるのは「改修してZEB化するのは無理」「解体して新築するほうが安い」という否定的な声ばかりでした。それでも諦めずに参考例を調べていった末に、岡山県津山市のZEB改修事例を見つけました。そこで巡り合ったのが、今回、ZEB化可能性調査とその後の実施設計を委託することになった備前グリーンエネルギー(岡山県備前市)です。

山口卓勇氏(備前グリーンエネルギー事業統括部長):ZEBの計画では、外皮と設備の仕様をどのように組み合わせればZEB化が可能か、ZEBのうちどのレベルを狙うのかを最初に明確にしておくことが重要です。ZEB化可能性調査では、調査を終了した段階ですぐ補助申請できるところまで具体的な内容を検討しました。

ZEB改修で特に難しい点は何ですか。

山口氏:ZEB化を達成するには全熱交換換気設備の導入が必須で、そのための排気口や給気口が必要です。しかし古い建物には、排気口はあっても給気口のないケースが多い。躯体の梁の位置によっては給気口を確保するのが難しく、しばしば苦労します。その点、環境部庁舎は以前清掃車両基地だったため多数の換気扇を設置していました。既存の換気口が十分あり、対応が容易でした。