4階建て、延べ面積約6000m2――。この規模のビルで、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)シリーズの中で最もハイレベルな「1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナス」を達成した事例は珍しい。三菱電機情報技術総合研究所のZEB関連技術実証棟「SUSTIE」をリポートする。
「低層ビルに比べて中高層ビルは、建物で消費するエネルギー量に対し、屋根に搭載できる太陽光パネルの設置数が少ないためハイレベルなZEBの実現は難しい。ただ、延べ面積が約6000m2の今回の規模なら4階建てでも可能ではないか。そう考えてチャレンジした」。
三菱電機情報技術総合研究所の浮穴朋興・監視メディアシステム技術部長は、プロジェクトの発端をこう振り返る。そして2020年10月、神奈川県鎌倉市にZEB関連技術実証棟「SUSTIE(サスティエ)」が完成した。実証実験関連投資約16億円を含め、約40億円をかけて建設した。
BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)で「1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスのZEB」の評価を得た建物は、2021年4月時点で約60棟ある。ただし、ほとんどは3階建て以下。SUSTIEは、4階建て以上の数少ない事例の一つになる。
計画は、早稲田大学理工学術院創造理工学部建築学科の田辺新一教授の協力を得てコンセプトを立案。設計・監理は三菱地所設計、施工は竹中工務店が担当した。
監視メディアシステム技術部は、ビルや街などに展開していく応用技術の開発を担う。「技術をより早く顧客に届けるためには、早い段階で技術の効果を検証していく場が欲しい。その実証の場としてSUSTIEを計画した」(浮穴部長)
同部の研究員など約260人が勤務する執務スペースには、各自がその時々に自由な働き方を選べるフリーアドレス制を採用した。同時に、日常的に執務者同士の交流を促す共用スペースを随所に配した。
館内に入ると目を引くのは、1階のエントランスから4階までセットバックしながら連続する吹き抜け空間だ。吹き抜け内の2階にはコーヒーサーバーのあるカウンターや書架などを並べた共用スペース「HUB(ハブ)」を設け、社内セミナー時などには座席も兼ねる大階段を配した。2、3階の共用スペースを踊り場にしながら上下階を結ぶ階段は、縦方向の主動線として機能する。
「実証室」と呼ぶ執務空間は、2~4階の南側に各階3室ずつ、小さな共用スペースを挟んで配置した。階ごとに「対話」「リラックス」「集中」というテーマを据え、内装の色調や執務環境を変えている。
「対話」をテーマとする2階は内装をブラウン系でまとめ、顔を合わせたコミュニケーションを促す大デスクを配置した。「リラックス」をテーマとする3階はグリーン系を採用し、植栽を配しつつ掘りごたつ式の席やソファ席など多彩な場を用意した。ブルー系の4階は「集中」をテーマに、視線を合わさずに個人で作業するデスク配置としている。
1階には、吹き抜けのエントランスホールの奥にカフェテリアと会議室などを設けている。325席を設けたカフェテリアは、SUSTIEだけでなく敷地内の他施設の従業員も利用する。