階ごとに設備方式を変える
実証の対象は同社の設備関連技術なので、建物自体はZEBの一般的な仕様にまとめた。東西側の壁面の開口を最小限にとどめ、南北の横連窓で光を取り込む。南面には日射をコントロールする庇を設けた。外壁には断熱材をはさみ込んだ厚さ35mmの金属パネルを使い、屋根には厚さ55mmの発泡ウレタンを施した。窓にはLow-E複層ガラスを用いている。
窓からの自然通風も活用した。実証室には手動で開閉できる窓を採用し、実証室同士の間に配した共用スペースの窓には自動開閉する自然換気口を設けた。共用スペースに取り込んだ外気は、除湿式放射冷暖房パネルに当てて「冬は予暖」「夏は予冷と除湿」をして館内に流す。そして重力換気によって吹き抜け上部から排出する。いずれも空調負荷を低減する工夫だ。
実証室の設備方式は階ごとに変え、効果や体感を検証できるようにした。4階は天井面を用いた放射式冷暖房システムを採用し、照明は全体照明と机上の照明を組み合わせたアンビエント&タスク方式としている。2階と3階は空調にビル用のマルチエアコンや店舗用のパッケージエアコンを導入し、直線状のLED照明「建築化照明器具SLIT」を天井に組み込んだ。
空調や給湯の室外機は、東西の妻面に設けたバルコニーに階ごとに設置した。配管の長さを短縮して省エネを図るほか、検証のために機器を交換しやすくする目的がある。
館内には330個のセンサーを取り付け、温湿度のほかCO2やPM2.5、放射線、花粉などの量を常時計測する。同社のビル管理システム「ファシーマ」に研究開発中のサーバーシステムを組み合わせた監視システムを導入した。実測値を基に消費エネルギー量や室内の快適性を予測しながら、空調や照明などの稼働を最適化するのが狙いだ。「居室の実証室に比べて共用スペースの空調を微妙に緩い設定にするなど、細かい制御を積み重ねて消費エネルギー量を抑えていく」と浮穴部長は話す。
創エネ面では、屋根と各階に設けた南面庇の上に合計1200枚の太陽光発電パネルを装備した。総発電量360kWのうち320kWはパワーコンディショナーで交流に変換して用い、残りの40kWは直流のまま4階の実証室の照明や人荷用エレベーターなどに利用する。敷地内の他の棟も含めて自家消費し、余った電力は蓄電する。
こうした工夫の結果、外皮性能を示すBPIは0.65、再生可能エネルギーを含めた1次エネルギー消費量の削減率は106%(再生可能エネルギーを除くと62%)となった。
環境負荷の削減に加え、SUSTIEでは快適性の向上に伴う健康の増進にも注力した。前述した設備の制御システムも、省エネだけでなく、働く人にとっての快適性向上を目指している。
1階の入り口から4階まで通じる吹き抜け空間は象徴的な存在だ。建物の中央に縦の主動線となる階段を置き、共用スペースのHUBや大階段を設けて、利用者がそこに行きたくなるように誘導している。エレベーターは入り口から直接見えないドアの奥にあえて配し、補足的な手段として位置付けた。このほか壁面の緑化、立ち作業可能なデスクや健康機器の導入など多彩な工夫を盛り込んだ。
SUSTIEの建物は2020年、建築環境・省エネルギー機構(IBEC)が評価するCASBEEウェルネスオフィスで最高レベルのSランクの認証を得た。さらに今後は、建物利用者の健康に関する米国の認証制度「WELL Building Standard(WELL認証)」の取得も目指す。
建築概要
三菱電機 ZEB関連技術実証棟「SUSTIE」
- 所在地:神奈川県鎌倉市
- 地域区分:6地域
- 建物用途:事務所等
- 構造・階数:鉄骨造・地上4階建て
- 延べ面積:6456m2
- 発注者:三菱電機
- 設計者:三菱地所設計
- 施工者:竹中工務店
- 完成:2020年10月