全2229文字
PR

「木造」と「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」は、いずれも現在注目されている建築のテーマだ。CLT(直交集成板)を用いて埼玉県東松山市に完成した「真下公認会計士事務所」は、この2つを両立させた建物といえる。

 「2030年の郊外型中小規模オフィスのスタンダードになる建築」。2021年3月に完成した真下公認会計士事務所(埼玉県東松山市)の新オフィスで目指したことについて、設計を手掛けた白江建築研究所(東京都中野区)の白江龍三氏はそう表現する。

 2021年10月22日に閣議決定されたエネルギー基本計画は、「2030年度以降新築される住宅・建築物について、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEB水準の省エネルギー性能の確保を目指し、整合的な誘導基準・住宅トップランナー基準の引き上げ、省エネルギー基準の段階的な水準の引き上げを遅くとも2030年度までに実施する」という目標を掲げる。

 その達成のためには、標準的な規模や平面計画を持つ建物で、汎用技術を用いながらZEBとする事例を多くつくり上げていく必要がある。真下公認会計士事務所は、そうした設計を志向した一例だ。

南西側外観。西面に正面玄関がある(写真:佐藤 嗣)
南西側外観。西面に正面玄関がある(写真:佐藤 嗣)
[画像のクリックで拡大表示]

 小さな引き違い窓が整然と並んだ延べ面積約350m2の2階建てオフィスは、近隣の2カ所の建物に分かれていた業務スペースを1つに集約したものだ。建物はシンプルな長方形平面を有し、ほぼ南に正対した配置としている。1階と2階に18席ずつの事務室を設け、会議室、応接室、資料室などを北西側にL字形に並べた。緩傾斜の片流れ屋根上には26kWの太陽光発電システムを設置している。

18席を用意した事務室。外壁のCLTの内側に石こうボードを張り、クロスで仕上げた(写真:佐藤 嗣)
18席を用意した事務室。外壁のCLTの内側に石こうボードを張り、クロスで仕上げた(写真:佐藤 嗣)
[画像のクリックで拡大表示]
1階平面図(資料:白江建築研究所)
1階平面図(資料:白江建築研究所)
[画像のクリックで拡大表示]
2階平面図(資料:白江建築研究所)
2階平面図(資料:白江建築研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 計画上の特徴は大きく2つある。

 1つめは、国産CLT(直交集成板)を用いた木造の採用だ。CLTや構造用LVL(単板積層材)などの利用を前提とした林野庁のJAS構造材個別実証支援事業を利用。1500万円の補助金を得てCLTパネルを調達した。

 2つめは、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)で「一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナス」のZEBの評価を取得したことだ。外皮の断熱性能の向上や太陽光発電設備の導入などにより、再生可能エネルギーを含めた設計一次エネルギー消費量の削減率を121%(再生可能エネルギーを除く同削減率は54%)とした。