補助金を活用したCLTを提案
白江氏は以前から木造を推進しつつ、温熱性能の高い建物の設計に取り組んできた。今回は補助金の活用を想定してCLTの採用を提案し、建て主の理解を得て計画を進めた。
一方、ZEBについては当初から目指したわけではなかったという。「およその設計を固めてからエネルギー消費量を計算したところ、ZEBを実現できることが分かった」(白江氏)
CLTは、主に構造部材として使用した。内外の構造壁(一部は非構造壁)と床に厚さ150mmのCLTを用いた。約7mのスパンを飛ばす梁(はり)には大断面集成材を使用している。
外壁部分の断熱は、厚さ150mmのCLTが有する断熱性能も加味して設定した。CLTの外側に厚さ100mmのロックウールのボードを直接取り付ける外張り断熱システムを採用した。天井面は、厚さ200mm以上の高性能グラスウールを施し、グラスウールの下面を防湿層とする仕様にしている。建て主の希望で引き違い窓にした開口部にはトリプルガラスの樹脂サッシを用い、室内側にブラインドを設けた。
「標準的な作法にのっとってオーソドックスに設計した。外壁全体がCLTなのでヒートブリッジが生じにくい。将来、第三者が改装することになった場合にもトラブルを起こす危険が少ないので、ストック活用にも向いている」と白江氏は話す。
ただしCLTのパネルに穴を開けるのが難しいため、電線類は主に床下に配線し、換気ダクトは天井裏を通すなどした。コンセント部分も壁の一部をふかして配線やコンセントボックスを納めている。
冷暖房は各居室に取り付けた住宅用の壁掛け式エアコンで対応し、換気には住宅用の24時間全熱交換換気設備を用いた。1、2階の床はいずれも高さ200mmのOAフロアとし、この二重床の部分を新鮮空気の給気風洞にも活用する。カーペット床の一部に設けたガラリから室内へ新鮮空気を送り出し、天井の照明ボックスの奥に設けたスリットを通して排気する。
建物の施工は、県内の住宅会社ワイケイホーム(埼玉県朝霞市)が元請けとなり、CLTの躯体(くたい)部分は志田材木店(新潟県長岡市)がパネルの加工から建て方まで手掛けた。工事中は、移転前に利用していた旧事務所が新オフィスの横にまだ立っていた。施工に利用できるスペースが限られているなか、クレーンでCLTパネルをつり上げて高い精度で躯体を組み上げた。
「CLT工法は、今回のようにCLT工法の経験のある材木会社と組めば、住宅を中心に手掛ける地域の工務店も参画しやすい分野となる。ゼロエネルギーを目指す場合、性能が高い住宅用サッシなどを扱い慣れている点も有利」と白江氏。「2030年のスタンダード」という目標には、中小規模建築を手掛ける施工会社の間口を広げる意図もあった。
建築概要
真下公認会計士事務所
- 所在地:埼玉県東松山市
- 地域区分:6地域
- 建物用途:事務所等
- 構造・階数:木造(CLT工法)・地上2階建て
- 延べ面積:348.82m2
- 発注者:真下公認会計士事務所
- 設計者:白江建築研究所
- 施工者:ワイケイホーム
- 完成:2021年3月