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 金沢市にある「清水建設北陸支店新社屋」は、1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスとなるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)だ。前編に続き関係者が、建築計画と設備計画を融合させた設計の工夫について語る。

清水建設北陸支店新社屋の南正面外観(写真:清水建設)
清水建設北陸支店新社屋の南正面外観(写真:清水建設)
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清水建設北陸支店新社屋の設計では何を目標としましたか。

堀部孝一氏(清水建設北陸支店設計部長):「伝統をつなぐ」「みんなとつながる」「未来につなげる」というコンセプトを掲げ、当社と金沢の伝統の融和、働き方改革の推進、未来につなげる新しい技術の導入を図りました。

 例えば、南の前面道路から見た新社屋の軒高と壁面位置を旧社屋とほぼ同じに設定してボリューム感を継承し、旧社屋時代に親しまれてきたサクラなどの大木と道路側の広場空間を残しました。

 2階の1フロアにまとめた執務スペースではグループアドレスを採用し、窓側に打ち合わせスペースなどのアクティビティーエリアを用意してABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング。場所や時間を自由に選択できる働き方)の実現を図ります。生体のリズムに合わせて色温度を変化させるサーカディアン照明と自然光を組み合わせるなど、健康に働ける場の創出にも配慮しました。水素エネルギー利用システムや大断面の耐火木鋼梁(はり)など、先端の技術を盛り込みつつ最高レベルのZEBをめざしました。 

2階の執務スペース(写真:清水建設)
2階の執務スペース(写真:清水建設)
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外観デザインでは格子状の壁柱と軒が印象的です。

堀部氏:窓面から張り出した壁柱と軒で垂直と水平のラインを生み出し、南面では夏の日射を遮蔽します。ただしペリメーター(外周部)は中央エリアに比べて日射による熱負荷の影響を受けやすいので、常時は利用しない打ち合わせ席などを並べました。パソコンを使い熱負荷が大きいワークスペースは、正方形平面の中央に配置しています。

各階の軒をもっと深く出したり、熱負荷の削減効果がより高い外付けブラインドを採用したりといった選択肢はあったのでしょうか。

堀部氏:金沢は雪が多いので、外観はできるだけ平滑に納め、固定物も取り付けないようにデザインしています。軒も出し過ぎるとたまった雪が周囲にまとめて落下する恐れがあるので、積雪も勘案して現在の寸法にしました。

 東西の開口に配したアルミルーバーは、金沢の町家に使われていた木虫籠(きむすこ)の格子を現代的に再生したものです。独特の台形断面が「室内からは外が見え、光を取り込む」という効果を生み出し、閉鎖的にならず、快適な室内空間をもたらします。新社屋では、見通し率、日射遮蔽効果、明るさ感の組み合わせをシミュレーションして断面形状を決定しました。