日経ホームビルダー2021年3月号は特集を2本お届けします。まず1本目は、特集1「待ったなしの水害対策」です。18年7月の「西日本豪雨」、直近では19年10月の「台風19号」、20年7月の「令和2年7月豪雨」など、近年は甚大な浸水被害を伴った豪雨災害が毎年のように発生してきました。既に住宅会社や研究機関では、こうした災害への対策を住宅性能の重要な要素と捉えた試験的取り組みが目立ち始めています。
特集1では冒頭で、このテーマにいち早く取り組んだ一条工務店(東京・江東)と防災科学技術研究所による「耐水害住宅」の実大実験を詳報。この実験は20年10月のことですが、両者はそのちょうど1年前の19年10月にも、同テーマの実大実験を実施しています。前回の実験では、主に開口部まわりの水密性を高めることで、床上・床下浸水を阻止する対策に重点を置いていました。当時、一条工務店は、試験棟に取り入れた浸水対策の効果を実証したうえで、早い段階で具体的な“商品化”を計画していたといいます。
しかし前回実験の直後、19年の台風19号で想定外の洪水災害が発生。長野市内では千曲川の氾濫により、比較的築浅の木造戸建て住宅が基礎ごと浮いて流されるという新しいタイプの被害(日経ホームビルダー20年5月号のリポート「高気密住宅が浸水で浮く」)に、住宅のプロや研究者の注目が集まりました。今回の実験では、こうしたタイプの被害も想定した“バージョン2”の対策の効果測定が重要な目的だったといいます。試験棟に新たに付加した要素の1つが、「(住宅を)浮かせて(洪水を)いなす」という機能です。その具体的な中身とは?──。これ以上はネタバレになりますので、特集をどうぞご一読ください。
住宅の高性能化が加速するなか、「性能水準をどの程度の高さまで求めるか」は一概には共通解を示しにくい問題かもしれません。しかし今日の家づくりは、既に「法定の基準や仕様を満たしているだけでは顧客や社会のニーズに対応し切れない」という段階に達している、と思えて仕方がありません。日経ホームビルダーが最近の発行号で、「耐震等級3が新標準!」(20年9月号)や「目指せ! 30年超ノーメンテの外皮」(21年1月号)など、少し先を見据えた技術水準の方向性をテーマにする特集を掲載してきたのも、そうした問題意識からです。今号の特集1も、同様の文脈で受け止めていただけばと思います。
一歩先を行く技術水準を追求する意義とは?──。1つには、特集1でも触れているように、大規模な自然災害の頻発化などによって、法定の基準や仕様だけでは生命の安全すら守れない事態が現実に生じているという実態があります。もう1つ、こちらはポジティブに捉えたい理由ですが、木造住宅の技術・ノウハウを生かせる場が少しずつ広がりを見せているという点です。3月号では2つ目の特集で、そうした具体例を紹介しています。特集2「省エネノウハウで受注の幅拡大」がそれです。
省エネ建築の社会的ニーズが高まりを見せるなか、地域の中小住宅会社などが高断熱・高気密性能の家づくりで培ってきた技術・ノウハウを他の用途ニーズに生かす取り組みが、着実に広がっています。特集2では、「保育園」「賃貸アパート」「ホテル」のプロジェクト3例を取り上げました。プロジェクトに取り組んだ住宅実務者や発注者(建て主)それぞれの生の声も紹介しています。取り組みの端緒や進め方、完成後の評価など、読者の皆様が今後のお仕事を考えるうえで参考にしていただけると確信しています。
住宅の省エネ性能に関して忘れてはならないのが、改正建築物省エネ法の目玉として21年4月からスタートする「説明義務制度」です。設計を受託した建築士が建て主に省エネ性能を説明することを義務付ける新たな制度ですが、これまで未着手だった住宅会社などにとっては、どう取り組むかが頭の痛いところではないでしょうか。3月号ではリポート「省エネ性能の説明義務『事前準備でトラブル防ぐ』」で、具体的な実務の勘所や、陥りやすいリスクを詳細に解説しました。制度スタート直前のおさらいとしても、ぜひご一読ください。
最後となりましたが、前号2月号に引き続いてのお知らせです。今号でも「編集部から」に記しましたように、日経ホームビルダーは次号2021年4月号をもちまして休刊致します。1999年7月号の創刊以来、20年余にわたる皆様のご支援に、改めて深く御礼申し上げます。残すところ1号となり、寂しいかぎりですが、編集部一同、最後まで全力で走り抜けます。