業界をまたいだ新材料の実用展開のスピードが格段に上がっている。多少コストが高くても新しい材料を積極的に使おうとする動きがさまざまな業界に現れてきたからだ(図1)。建築分野で評価を得た材料が自動車分野で注目されるなど、新材料の実用展開は業界の壁を越えて混然一体となりつつある。
これまでは、宇宙・航空機や嗜好性の高いスポーツ用品といった特殊な分野から新材料を利用することが多かった。材料コストの高さを吸収した高額な製品価格を設定できる分野だからだ。
新材料は段階を踏みつつ、より大きな汎用材料への適用に向かうのが常だった。例えば自動車業界では、まずは高付加価値を厳しく求められる高級車から採用され、需要が十分に拡大してコストがこなれてきたら、より生産台数の多いコンパクトカーで実用化。そして、次はより大きい市場規模を持つ建築・土木という別の業界に波及──といったような実用展開の流れだ(図2)。こうした材料普及の“法則”が大きく変わりつつある。
新材料の実用展開でなぜそのようなパラダイムシフトが起きているのか。それは、優れた材料にはさまざまな社会的要請に応える力があるからに他ならない。