材料の中でも樹脂の開発は多様性に富んでいる。開発の方向性だけを見ても、耐熱性の向上や塗装レス化、脱化石燃料化、電気特性の向上、放熱性の向上、既存材料の置換といった具合だ(図1)。
他の材料と比べて、樹脂は一般に低コストで軽く、成形しやすい性質があり、形状の自由度が高い。特性の異なるさまざまな樹脂が既に提供されており、これと他の材料を添加すると、機械的強度特性や温度・熱的特性、電気的特性といった機能を高めたり、追加できたりする。設計者の目線で見ると使い勝手に優れ、便利な材料なのだ。実際、日用品から建材、デジタル機器、家電製品、自動車、航空機の輸送機器の内装材などまで、実に幅広い用途に使われている。
今、樹脂の開発はかつてないほど盛り上がっている。その原動力の1つになっているのが、自動車分野で進む「樹脂エンジン」に向けた開発だ。エンジンを構成する金属製部品を樹脂化する動きである。軽量化と低コストを同時に担う。
エンジン部品をギリギリまで樹脂化する
エンジンを構成する材料は現在、アルミニウム(Al)合金が主流だ。Al合金の比重は2.5~2.7程度。これをさらに軽くするには、比重が2に満たない樹脂に置き換えればよい。ところが、樹脂は金属と比べて熱に弱い。比較的耐熱性の高い樹脂を使っても、部品として使用する場合の耐熱温度は100~120℃程度にとどまる。そのため、吸気マニホールドやエンジンカバー、電子制御ユニット(ECU)の筐体など、エンジン周辺部品がこれまでの樹脂化の「限界」だった。
この耐熱温度の限界を突破し、より高温の環境になるエンジンやトランスミッションの金属製部品の置き換えを狙う、新しい樹脂が開発されてきた。図2は、樹脂で出来たピストンとコネクティングロッド(コンロッド)。三井化学が、スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)である熱可塑性ポリイミド(PI)「オーラム」を使って成形した。現行のAl合金製ピストンとコンロッドと比べて3割以上軽量化できる。
同社のPIは、射出成形が可能な熱可塑性樹脂の中で「世界最高」(同社)の耐熱性を備える。耐熱性の指標の1つであるガラス転移点は250℃で、実用的には240℃程度までの高温環境で使用できる。ピストンの頭頂部にAl合金製部品を被せて火を遮れば、自動車用エンジンより条件が緩い発電機用エンジンのピストンなどなら使える可能性があるという。
エンジンのピストンやコンロッドだけではなく、過給機(ターボチャージャー)の部品やエンジンオイルを循環させるオイルポンプの部品などで、現行の金属製部品を置換できる可能性がある。既に、トランスミッションの部品であるスラストワッシャーや軸受の保持器(リテーナー)では実用化されている。軽量化効果は大きく、前者で約80%、後者で約50%である。