樹脂はエレクトロニクスの最先端分野でも利用できるようになっている。例えば、5G(第5世代移動通信システム)化や自動運転の領域である。5Gでは10Gbps以上の超高速通信を目指し、自動運転ではミリ波レーダーを使って100m以上の範囲を探知してクルマの衝突を回避する。共通するのは、従来よりも高周波の信号を利用することだ。これらの技術では波長が1~10mmで、周波数帯域が30~300GHzの「ミリ波」と呼ばれる領域の信号を扱う。

 JXTGエネルギー(本社東京)が開発を進めている液晶ポリマー(LCP)「ザイダー 低誘電グレード」は、こうした用途で従来品よりも信号損失を抑える。熱可塑性のスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)と呼ばれるタイプの樹脂だ(図1)。

図1 LCP「ザイダー」のペレット
図1 LCP「ザイダー」のペレット
LCPは耐熱性や成形性、寸法安定性、難燃性、制振性などさまざまな機能を備えるスーパーエンジニアリングプラスチックの1つ。JXTGエネルギーは高速伝送や高速通信に伴う信号ロスを小さく抑えるべく、低誘電性を備えたLCPの新グレードを開発中。ただし、写真は開発中の低誘電グレードではなく、既に商品化しているLCPのペレット。
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 電子回路基板(以下、回路基板)として一般的なガラスエポキシ基板を5Gシステムの回路基板やミリ波レーダーの回路基板に使うと、信号が大きく減衰する。すると、高速伝送や高速通信で伴う信号ロスが生じ、通信性能が落ちたり、レーダーの探知距離が短くなったりしてしまう。開発中のLCPの新グレードは、信号の減衰性を表す指標である誘電正接を抑える低誘電化を実現した。分子構造を制御することで低誘電化を実現し、誘電正接を0.0007と小さく抑えている。同社の従来のLCPは誘電正接が0.0023と大きかった。誘電正接の値が高いほど減衰が大きく、低いほど減衰が小さくなる。

 ガラスエポキシ基板の代わりにLCPの新グレードを5Gシステムの回路基板に使えば、高周波信号の減衰が小さいため大規模なデータを高速に伝送できる。同じくミリ波レーダーの回路基板に使うと、探知距離を長くできるという。

熱伝導率が桁違いの樹脂

 熱的特性を高めた樹脂の開発も進んでいる。例えば、東洋紡が開発したポリエチレンテレフタレート(PET)「バイロペット 高熱伝導グレード」だ(図2)。詳細は明かさないが、熱伝導性を高める強化材をPETに添加し、熱伝導率を8.8W/(m・K)と一般品の40倍以上に高めた〔ただし、板材の流れ(長さ)方向。厚さ方向ではない〕。ちなみに通常のPETの熱伝導率は0.1~0.2 W/(m・K)程度である。

図2 放熱性を向上させたPETの板材
図2 放熱性を向上させたPETの板材
熱伝導率を通常のPETよりも1桁高めた。熱による劣化に強くなり、部品の寿命が延びる。
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 放熱性が高いことから、高熱環境下で使う樹脂製部品の寿命を延ばせる。例えば、自動車のランプソケット(の一部)に使えば、従来のPET製よりも熱による劣化が少なく、長寿命化できる。とはいえ、熱伝導率が100 W/(m・K)を超える現行の(オール)アルミニウム(Al)合金製ランプソケットを丸ごと置き換えるのはまだ難しい。そこで、東洋紡はAl合金と新しい樹脂を組み合わせたランプソケットを提案している。Al合金製部品を新しい樹脂でインサート成形して造るランプソケットだ。

 Al合金の一部を樹脂に置き換えると、まず軽量化が期待できる。加えて、射出成形で造れるので形状の自由度と生産性の両方が高く、コスト削減が見込める。新しい樹脂は通常のPETの4~5倍ほど高価格ではあるが、それをカバーできる可能性はある。