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疲労耐性を上げることも可能に

 自己修復ガラスの主成分となるのが、ポリエーテルチオ尿素と呼ぶ高分子材料だ。

 それは偶然の産物だった。相田教授らはもともと、薬理作用などを期待できる分子レベルの生物的な接着剤である「モレキュラーグルー」の研究に着手していた。研究は順調で、目標とする最終生成物の一歩手前まで進んだ時だった。出来上がった中間生成物に、研究者としての嗅覚が働いたのだ。

 「乾かしてカチカチになった中間生成物がたまたま割れて、押し付けるとつながるということに気がついた」と相田教授は話す。まさにそれが、ポリエーテルチオ尿素だった(図3)。その面白い物性に興味を持った相田教授らは、ポリエーテルチオ尿素の材料研究に方向転換する。

図3 研究室で作成した自己修復ガラス
図3 研究室で作成した自己修復ガラス
(出所:東京大学)
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 高分子は一般的に、分子鎖が長いほど硬く、短いほど軟らかくてくっ付く機能を持つ。「ポリエーテルチオ尿素の分子鎖は比較的短いため、くっ付きやすい。一方で分子同士が水素結合で可逆的につながっているので、ある条件では長い分子のようにふるまわせることができ、硬くなる」(相田教授)。

 通常、高分子材料は過熱・溶融すれば融合する。ただし材料の変形も伴うため、再利用は難しい。さらに高温の熱が必要なので、応急的にその場で修復するのは困難だ。今回開発した技術を使えば、その場でしばらく押し付けるだけで見た目は元通りに戻る。数時間圧着し続ければ、機械的強度が破損前と同等の値にまで回復することも証明した。

 破断した後にくっ付けることができるという性能は、疲労耐性を上げることにもつながる。

 「目に見えないクラックが入ったときに自動的に修復しようとする。疲労の蓄積を避けて長く使えるというメリットもある」と柳沢氏は話す。この特性を生かして、既存のポリマーにポリエーテルチオ尿素を混ぜることで、疲労耐性を上げる用途などが考えられる。