物質・材料研究機構(NIMS)と横浜国立大学は、人の骨の治癒過程をヒントに、航空機エンジンのタービン静動翼の部材に使える「自己治癒セラミックス」を共同で開発した(図1)。飛行中にタービン翼に亀裂などが入っても、10分程度で完治する。
航空機業界で大きな問題となっているのが、飛行に伴う二酸化炭素の排出だ。排出量を大幅に削減するために軽量化は避けて通れない。ボディーに炭素繊維強化樹脂(CFRP)を使うなど、あらゆる箇所の軽量化に挑んでいる。
ジェットエンジンを構成するタービン部の軽量化もその1つだ(図2)。600~1500℃の高温環境下のために耐熱性が必要で、基本的にはニッケル超合金などの金属材が中心に使われてきた。耐熱性が高くて金属よりも軽いセラミックスが一部の飛行機でようやく使われようとしているものの、脆弱さゆえに離陸中や飛行中に異物が衝突して損傷する可能性があり、採用箇所は限られる。
それでも、タービン静動翼をオールセラミックス化できれば軽量化に寄与するほか、耐熱性の高さからさらなる高温化が可能になるため、燃焼効率が上がる。試算では燃費は15%ほど向上するので、セラミックスの技術革新が望まれていた。
実は20年以上前に、横浜国立大学の研究グループがアルミナ(Al2O3)と炭化ケイ素(SiC)を複合したセラミックスに、自己治癒機能があることを発見していた。亀裂が入ると、セラミックスの中にある炭化ケイ素と亀裂から入った酸素が反応して酸化ケイ素(SiO2)ができ、それが亀裂を埋める(図3)。
ただし、どのように亀裂を埋めていくのか、また埋める速度を決める物質は何かということは詳しく分かっていなかったという。さらに、亀裂が完治するまでには1000℃以上に保った高温下で、1000時間を要しており、実用化には色々な壁を乗り越えなければならなかった。そこで治癒時間の短縮などに乗り出したのが、NIMS高強度材料グループの長田俊郎主任研究員の研究チームだ。