いつか断熱材そのものが、窓や壁になるかもしれない─―。そんな期待を抱かせる新素材が開発されつつある。ベンチャー企業のティエムファクトリ(東京都港区)と京都大学、YKK APが共同開発している超軽量透明断熱材のエアロゲル「SUFA(スーファ)」だ(図1、2)。
エアロゲルは、体積の90%以上が空気でできている。SUFAではブロック状や粒状、パウダー状のバリエーションを用意した。ブロック状の場合、触れると端が崩れるほどもろい。両面を強化ガラスで挟んで圧着することで、断熱ガラスとして使える。
「透明性の低い粒状のSUFAは壁パネルに充填して間仕切り壁などに使う方法も考えられる」と、ティエムファクトリのクリエイティブソリューション部の堀内史郎部長は説明する。
エアロゲルは1930年代に組成が発明され、90年代に米航空宇宙局(NASA)が実用化に成功した。これまで一般に普及しなかったのは、製造工程で超臨界乾燥装置という高価な装置を使わなければならず、コストが高かったからだ。
ところが、京都大学大学院の中西和樹准教授が、超臨界ではなく常圧で乾かせる工程を発明し、近年では実用化を目指せるレベルまで価格が下がってきた。
SUFAは建物の断熱材に利用されているグラスウールと比べて約3倍の断熱性能を持ち、密度が1cm3当たり0.11~0.12gと非常に軽い。さらに、海外の競合他社が販売しているエアロゲルと異なり疎水性を持つので、水分による劣化が起こらない。「SUFAは少なくとも5年間は経年劣化がないことを確認できた」(堀内部長)。
現時点では最大で300mm角のサイズを2019年末に商品化する見込みだ。その後は、設備の拡充や工場の建設を進めて21年に1m角まで大判化し、28年の量産化を目指す。「今後の法令改正で、建物にはより高い断熱性能が求められるかもしれない。それまでに大判化したSUFAを商品化したい」と堀内部長は語る。