宇宙開拓時代の扉が開きつつある。内閣府は2017年5月に、「宇宙産業ビジョン2030」を発表。宇宙開発に注力する姿勢を示している。1兆円強の国内宇宙産業の市場規模を、30年代の早い段階で2倍に拡大する計画だ。

 宇宙開拓を実現するカギとなるのが、人や資源などの運搬方法だ。従来の常識ではロケットが思い浮かぶ。だが、発着が頻繁になるのは目に見えており採算が合わない。その解決策として大林組が構想する技術が宇宙エレベーターだ。宇宙から長さ約10万㎞のケーブルを地上に垂らし、「クライマー」と呼ばれる車両が昇降する人類最大のインフラだ(図1)。

図1 大林組が構想する宇宙エレベーター
図1 大林組が構想する宇宙エレベーター
カーボンナノチューブのケーブルを「クライマー」と呼ぶ車両(図の右下)で昇降する。物資の運搬だけでなく、地球を回る遠心力を生かした人工衛星の軌道投入などの用途でも期待されている(出所:大林組)
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 大林組の宇宙エレベーター構想は、「垂直移動するモノレール」のイメージに近い。ケーブルの長さは約10万㎞。その長さを6 両編成の「クライマー」が時速200㎞で登る。全行程は約3週間。中間点となる静止軌道(赤道上空では約3万6000㎞)に向かうにつれて地球の重力から解放される。

 この壮大な宇宙インフラを実現するうえでは、ケーブルが文字通り命綱となる。設計上、70〜80GPa(ギガパスカル)程度の高い張力を求められる。かつ、約10万kmの長さだけに自らの重みにも耐えられる強度が要る。そこで材料候補として有力視されているのが、カーボンナノチューブ(CNT)だ(図2、3)。

図2 カーボンナノチューブをより糸状にしたもの
図2 カーボンナノチューブをより糸状にしたもの
断面の直径は20マイクロメートル(マイクロメートルは100万分の1メートル)。ひげ状のものがカーボンナノチューブ。1本当たりのカーボンナノチューブの直径はわずか20ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)だ(出所:大林組)
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図3 宇宙エレベーターの地上側における発着拠点のイメージ
図3 宇宙エレベーターの地上側における発着拠点のイメージ
カーボンナノチューブのケーブルが空に延びる(出所:大林組)
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