製造業の世界で注目を集めるキーワードに「デジタルツイン(デジタルの双子)」がある。現実世界の「モノ」をデジタル世界で忠実に再現する考え方、あるいは再現したモノを意味する。
「現実世界のモノをデジタル世界に再現する」と聞くと、3D-CADで作成するデジタルモックアップ(DMU)を想像する人も多いだろう。DMUは物理的な試作品(モックアップ)の代用品として、設計フェーズで詳細検討を加えるために作成される。これに対して、デジタルツインは製品が稼働した後も現実世界の情報を常に反映しながら、個別の製品それぞれの状況を表現するという違いがある。その狙いは、設計フェーズにとどまらず、製造、実稼働時のサービス、さらには製品の廃棄後を含めて、製品のライフサイクル全体で様々な用途に利用できるバーチャルなモノの作成である。
Industrial Internetの中核技術として脚光
デジタルツインは、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が推進する「Industrial Internet」の中核技術に位置付けられたことで一躍脚光を浴びた。Industrial Internetは産業用機器とITを組み合わせて、既存産業の大幅な効率化や新産業の創出を目指すコンセプト。GEは航空機のジェットエンジン、風力発電用タービンといった受注生産の産業用機器の予兆診断などにデジタルツインを活用している。これらの産業用機器は通常、導入後の保守サービスとセットになった「PaaS」(Product as a Service:プロダクトを所有せず、その機能をサービスとして利用する形態)として顧客へ提供される。デジタルツインによってメンテナンスを効率化して製品ライフサイクル全体のコストを抑えることは、事業の収益性向上に貢献する。
例えば風力発電用タービンは、設置場所の地形に影響を受けるため個体ごとに部品の消耗度が異なる。GEではそれぞれのタービンブレードの表面状態を撮影、その画像に温度、回転数を組み合わせてブレードの劣化具合を分析、故障前に適切な対応を取ることで稼働率を向上させている。実稼働時のデータを取り込んで現実世界のモノを「1対1」で忠実に再現するという意味で、デジタルツインの典型的な活用事例と言えるだろう。
工場の生産ラインでも、デジタルツインの利用は始まっている。GEヘルスケア・ジャパン(東京都日野市)の日野工場は、医療用の超音波診断装置のプローブ生産ラインで様々なデータを収集し、一元的に管理・監視できるようにしている。生産設備の部品がどのように劣化しているかを把握して、トラブルが発生する前に部品の交換時期を判断するためである。
産業用機器、生産ラインからのデータ収集と分析には、GEのIoT(Internet of Things)プラットフォーム「Predix」とそのアプリケーションを使用する。GEはデジタルツインの分析に役立つAI(人工知能)関連企業の買収も進めており、既にデジタル関連機能を集約した新組織、GE Digitalを設立している。