「2020年の東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪)は、日本の先進性を世界にアピールする大きなチャンスになる」――。日本自動車工業会(JAMA)会長の西川広人氏は、自動車業界の首脳陣を前に語気を強めた。2018年1月に都内で開催した業界の新春賀詞交歓会には、自動車メーカーや部品メーカーの首脳約1700人が集結。東京五輪を契機に、日本の先端モビリティー技術を世界に示そうと呼び掛けた。

 「激安電気自動車(EV)」「自動運転サービス」「乗り捨て自転車」「すぐ乗れるタクシー」「環境世界一の燃料電池車(FCV)」「誰でもモビリティー」――。世界有数の大都市である東京都。2020年にこの地は世界に向けた先端技術の“ショーケース”となる(図1)。東京都が抱える人口の増加や一極集中、環境対応車、自動運転への対応といった課題を新技術で解決できれば、2020年以降、巨大な世界市場への扉が開く。

図1 2020年の東京はモビリティー技術を集めたショーケースに
図1 2020年の東京はモビリティー技術を集めたショーケースに
東京オリンピック・パラリンピックでの交通課題を解決できれば、巨大な世界市場への扉が開く。「激安EV」や「自動運転サービス」、「乗り捨て自転車」や「すぐ乗れるタクシー」、「環境世界一のFCV」や「誰でもモビリティー」などで、世界に技術力を示せるか。(イラスト:楠本礼子)
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 東京の交通網は大きく変わる。次世代モビリティーとして「すぐ乗れるタクシー」や「乗り捨て自転車」などが普及。スマートフォン(スマホ)のアプリケーション(アプリ)を使い、待ち時間無しで利用できるようになる。さらに、老若男女・車いすでも乗り降りしやすい「誰でもモビリティー」が新しい移動手段となる。

 環境対応車では、電池の低コスト化により、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の普及が見えてくる。車両価格が200万円台の「激安EV」や、コストを1/2にして普及を狙った「環境世界一のFCV」などが登場する。「自動運転サービス」の導入も進み、難関だった首都高速道路を攻略できるようになる。

人口増加で崩れる都心の交通網

 「いったい何時になれば帰れるのか」――。JR渋谷駅で電車を待つ20代の男性会社員は、雪が降りしきる夜空を見上げてこうつぶやいた。2018年1月22日、日本列島を襲った強い寒気と降雪によって都心の交通網は崩壊。交通の要となる電車では運転の見合わせや遅延が相次ぎ、渋谷や池袋などの主要駅には人が溢れた。他の交通手段に切り替えようにも、バス停やタクシー乗り場には長蛇の列。結局この男性は、数時間電車を待ち家路についた。