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IT企業がモビリティーを握る

 クルマを停められる拠点を確保できたら、各々の目的地に向かった個人の移動が始まる。その選択肢の一つとして頭角を現してきたのが自転車シェアだ。運転免許が不要で、利用料金も安価な近距離移動用のモビリティーとして使い勝手が良い。例えば、自転車シェアの平均的な利用距離である5kmを移動しようとした場合、タクシーで同程度の距離を移動した場合と比べ料金を1/10以下にできる。東京五輪での訪日外国人を意識したスマホを使った利用の仕組みも広がる。既存のサービスと連携させて会員を囲い込むIT企業が主導権を握る(図5)。

図5 IT企業の参入が相次ぐ自転車シェア
図5 IT企業の参入が相次ぐ自転車シェア
2011年にNTTドコモが市場を開拓し、ソフトバンクやメルカリ、LINEなどのIT企業の参入が相次ぐ。ICカードやスマホ、暗証番号などで後輪部分に搭載する鍵を開錠する方式が主流。既存の会員制サービスと連携させて、顧客の囲い込みを狙う。
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 本格的な自転車シェアの事業化は携帯キャリア国内首位であるNTTドコモが2011年4月に実現した。2016年にはソフトバンクが進出。2018年にはフリーマーケットアプリのメルカリに加え、対話アプリのLINEが中国の自転車シェア大手モバイク(Mobike)と組んで参入する見通しだ。利用方法は概ね共通である。決済用のクレジットカード情報などの会員登録を済ませて、ICカードやスマホ、暗証番号などで後輪部分に搭載する鍵を開錠する。利用後は目的地付近のシェア拠点に返却する。鍵部分にGPS(全地球測位システム)を搭載する場合が多く、拠点の場所と利用可能な車両の台数はアプリ画面の地図上に表示する。拠点ごとの台数に大きな偏りが生じたら、トラックで回収するなどして手薄な拠点に振り分ける。

 各社が力を入れるのは、携帯電話回線やアプリなど、既存の会員制サービスとの連携である。既存のサービス利用者を自転車シェア事業の利用者として引き込む。反対に、自転車シェアの利用を契機に同社のサービスへの利用を促す狙いがある。例えば、NTTドコモの場合は同社の携帯電話回線利用者には登録時の情報入力を一部省くなどして使いやすくし、利用料金は携帯電話料金とまとめて支払うことができる。メルカリやLINEは、既存のアプリに会員情報をひもづけて決済できるようにしたり、利用状況に応じてポイントを付与したりして他社と差異化する計画だ。

 IT企業が自転車シェア事業に注力するのには理由がある。利用者が登録した個人情報とGPSを基に収集した移動情報を合わせれば、「いつ・どこに・誰が」移動したのか、行動データを集められるからだ。NTTドコモ子会社で自転車シェアを手掛けるドコモ・バイクシェア社長の堀清敬氏は「今後は収集したデータを活用して、マーケティングに生かしたい」と意欲を見せる。メルカリ執行役員の松本龍祐氏は「(自転車シェアは)基本的には投資事業だ。まずは既存事業との相乗効果を狙っている」と語る。行動データを集められることは、対消費者の事業を手掛ける各社にとって大きな強みになる。利用料金の徴収や車両に張り付けた広告収入などでは、車両の導入やシェア拠点の整備コスト、車両運搬用のトラックの手配などの必要費用を賄うことは難しい。しかし、行動データを既存事業に生かせれば、投資に見合う収益を挙げられる可能性はあるというわけだ。

 今後は利用できる自転車の台数やシェア拠点の数での競争が見込まれる。特に自転車シェアが日常の移動手段として定着している訪日外国人の獲得が成長への起爆剤になり得る。自転車シェアの本場である中国では、シェア拠点に自転車を必ずしも返さなくてよい「乗り捨て型」が一般的。この形式ならば、目的地に近づいて自転車を停められる。自転車シェアの利便性をさらに高められる。「(近隣への迷惑を考えると)現状では難しいが、将来的にはどこでも自転車を停められる世界を目指したい」(メルカリ執行役員の松本氏)とし、メルカリは乗り捨て型を目指すべき形に位置付けている。GPSによる位置情報とITを駆使して課題を解決できれば、2020年の東京で、乗り捨て型の自転車シェアを実現できるかもしれない。