東京の未来を語るうえで外せない一大イベントが、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックだ。魅力的なイベントにするため、先進的なテクノロジーを積極的に活用する方針という。2年後に迫る「ハイテク五輪」をリードするのは、日本IBMの要職やセールスフォース・ドットコム日本法人社長などを歴任した宇陀栄次氏。国内外のIT事情や人脈が豊富なことで知られる宇陀氏は、どのような革新的なイベントにしようと動いているのか。

(聞き手は戸川 尚樹=日経 xTECH IT 編集長、編集は榊原 康=日経 xTECH)

宇陀さんは東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のチーフ・テクノロジー・イノベーション・オフィサー(CTIO)という役割です。耳慣れませんが、CTIOとはどのようなお仕事なのですか。

 まずは東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)の役割をおさらいしておくと、IOC(国際オリンピック委員会)やIPC(国際パラリンピック委員会)の直接的な窓口となり、東京都をはじめとするステークホルダーと協力し、大会の準備や運営を担う組織になります。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の宇陀栄次 チーフ・テクノロジー・イノベーション・オフィサー
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の宇陀栄次 チーフ・テクノロジー・イノベーション・オフィサー
(撮影:陶山 勉、以下同じ)
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 その中で、私が務めるCTIOの役割は、オペレーションのマネジメントではなくて、イノベーションをリードすることです。東京オリンピック・パラリンピックを魅力的なイベントにするため、ITなど様々な技術を活用した革新的なアイデアを企画し、それを実現していきたいと燃えています。

 最新技術を使うといっても、それは手段にすぎません。CTIOとして私が個人的に重視していることは、「オリンピック・パラリンピックを通じていかに国益に貢献できるか」という点です。

 私は元々、民間の出身なのでROI(投資対効果)に対する意識が強い。それこそ1兆3500億円の予算に対し、20倍や30倍、例えば30兆円のリターンを得られるようにしたい。もちろん、長期的な視点に立ったうえでの話になります。

最大のリターンを得るために、どのような取り組みが必要になると考えていますか。

 例えば東京はきれいで非常にすばらしい都市ですが、本当の意味での国際都市になっていないと感じることがある。典型的な例が、道案内のための標識です。

 標識そのものはあり、英語などの案内も出ていますが、訪日外国人にとっては分かりにくい。結局は迷ってしまい、意味がない。標識を取り換えればいいのかもしれませんが、もう間に合わないでしょう。

 そこで個人的に考えているのは、手元のスマートフォンを標識にかざすと、様々な言語に自動翻訳してくれる仕組みを活用することです。あくまで例にすぎませんが、こうしたものを安価に実現してユースケースとして見せることができれば良いのではないでしょうか。

 世界中のメディアに向けたおもてなしも重要だと考えています。オリンピックでは世界の約200カ国から約3万人のメディア関係者が訪れるとされています。

 仮にメディア関係者が1人当たり平均10万人に発信したとすると、30億人に情報が届くことになります。それも1回とは限らないため、実際にはそれ以上です。そこで日本のすばらしさが発信されるのか、良くない部分が伝わるのかでは大違いとなります。

 それこそ移動に関しては、到着した空港からホテルや会場までスムーズにたどり着けるようにしたい。観客やメディア関係者など海外から東京に足を運んだ方々が、道に迷わないようにするためのナビゲーションの仕組みを充実させたいと思っています。

 会場も相当広いですから、「ラスト10メートルくらい」までの精度で案内できるようにするのが目標です。これさえあればピンポイントで目的地に行けるようなイメージです。もちろん多言語対応にします。