「現在開発中の多くのモビリティー技術により、東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪)の成功に貢献していきたい」――。トヨタ自動車社長の豊田章男氏は2020年へ熱い思いを隠さない(図1)。
トヨタが特に開発に力を注いでいるのが、限られた範囲で完全自動運転を実現できる「レベル4」に対応した車両「e-Palette」だ。e-Paletteは2020年から実証実験を始める計画で、第1弾の舞台として東京五輪を選んだ。先進的なイメージをアピールして、単に我々を驚かせることが目的ではない。東京五輪の舞台で自動運転車を鍛え、世界市場へ挑戦する切符を掴むことが大きなミッションだ。
世界市場への挑戦を目論むのはトヨタだけではない。五輪が開催される2020年の東京は、主要各社にとっても開発中の自動運転車の実力を試す絶好の機会となる。東京は、自動運転車にとって解決しがいのある難しい課題が集約されているからだ。
2020年の自動運転で見るべきポイントは次の3か所だ。東京国際空港(羽田空港)と首都高速道路(首都高)、都心の市街地である(図2)。世界各地から押し寄せる訪日外国人は、航空機を降りた瞬間に未来を感じるはずだ。航空機から搭乗口まで送るバスが自動運転になる。さらに、空港から都心へ出る首都高速道路でも、自動運転車が走り始めるだろう。東京五輪の競技会場を中心とする市街地では、トヨタなどが開発したクルマが選手や大会関係者を乗せて動き回る。
日本の自動車メーカーを束ねる業界団体である日本自動車工業会(JAMA)は2017年に、2030年を見据えた中長期ビジョンを策定している。その中で東京五輪を「将来のモビリティー社会の向けた基盤づくりの機会」(JAMA)と位置付けた。2020年に羽田空港と首都高速道路、臨海副都心の市街地の3カ所で自動運転の実証を敢行し、「将来のモビリティーの実現に向けた足掛かりとなるレガシーを遺す」(JAMA)と意気込む(関連記事:初のパラリンピック2度目開催、“誰でもアクセス”目指す)。
すでに、本番である2020年に向けて、官民一体となった“予行演習”が始まっている。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「自動走行システム」はJAMAと歩調を合わせ、公道における大規模実証を2017年10月に開始した。
SIP自動走行システムでプログラムダイレクター(PD)を務める葛巻清吾氏(トヨタ先進技術カンパニー常務理事)は実証実験について、「商用の技術で実現させていく」と述べる。東京五輪だけのために特別な自動運転システムを開発するのではなく、あくまでその先の普及展開を見据えた取り組みであることを強調した。
日本一忙しい羽田空港で自動運転
「東京五輪で世界中から多くの人が日本に来る。日本のイノベーションに触れてもらう絶好の機会だ」。こう語るのはANAホールディングス社長の片野坂真哉氏である。同氏は、「空港こそ自動運転の活用が期待される場所だと考えている。羽田空港の旅客ターミナル周辺などでの自動運転に取り組む」と積極的だ。
羽田空港は日本で一番忙しい空港である。国土交通省の統計データによると、2016年の年間乗降客数は8000万人を超えた。これは、2位の成田空港の倍以上の数字である。羽田空港は2017年10月に、第2旅客ターミナルで国際線対応施設の整備工事に着手した。より多くの国際線旅客を受け入れられるようにする。2020年3月ごろに運用を開始する予定。大量の人と荷物を定刻を守って効率よくさばくのは至難の業で、自動運転車が貢献できれば大きな実績になる。