都市をつくる方法が転換期にある。コンピューターのソフトウエア開発の方法に近くなった、と見る向きもある。エリアマネジメントなどを専門とする保井美樹氏の進行で、原宿を拠点に芸能プロダクションを経営する中川悠介氏、渋谷を拠点にクリエーティブな人材の活動の場を生み出す林千晶氏、建築家の藤村龍至氏に、東京圏で感じる時代の変化を語り合ってもらう。
保井 東京都は2017年9月に「都市づくりのグランドデザイン」を発表しています。その過程で有識者によるプレゼンの場(東京のグランドデザイン検討委員会、15年)を設け、皆さんは、そこに招かれていました。私は、都市計画審議会の委員としてグランドデザインの前段階の答申(2040年代の東京の都市像とその実現に向けた道筋について、16年)に関わりました。そうした経験から議論できればと思います。
そのときのプレゼンテーションで林さんは、「個の力を都市の価値創造につなげる」とおっしゃった。これは今日の皆さんに共通する考え方のように感じています。
林 メディアラボの仕事(米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長補佐)などに携わるなかで、未来って予測するものじゃないよねという意識がありました。都から依頼があった当初はかなり難しいテーマだと感じていました。でも、やってよかった。どなたのアイデアも面白くて、あの場で提案されたものはそれぞれの人のなかに脈々と生き続けているように思います。
私も東京がどうなるといいかをイメージし、浮かび上がってきた言葉が「個人が中心になるまち」だったんです。
長い歴史のなかでまちをつくる主体が変わってきたという話が建築関係の本を読んで記憶に残っていたんです。昔は王族、やがて国家、今は企業が中心になって開発している。そしてこれからは、まちをつくる主体も動かす主体もどんどん個になる、そちらに向かいたいという思いがありました。ソーシャルやシェアという言葉に象徴されるように、意志を持つ個人が力を発揮できるプラットフォームが現れ、産業界に大きな影響を与える時代になった。米エアビーアンドビー(AirBnB)も米ウーバー(Uber)もそう。まちも同じだと考えたんです。
そうしたら、やはりプレゼンターだった馬場さん(正尊氏、建築家、Open A代表)が全く同じ構想を描いていたので、びっくりした。これがきっかけで、都やアーツカウンシル東京と共働するNPO「場所と物語」を馬場さんなどと立ち上げたんです。表舞台では大きな開発が行われるとしても、文化や芸術などを生むのは個が主体じゃないかという考え方で活動しています。
保井 当時のプレゼンが、まさに脈々と生き続けているわけですね。