0.012%――。大都市で電気自動車(EV)の充電網を整備する難しさを物語る数字だ。都内には約13万棟のマンションがあるが、EVの充電器を設置してあるのは2017年3月時点でわずか16カ所しかない(図1)。13万棟のマンションには都民の約6割が住んでいるとされる。マンションへの充電器設置なくしてEVの普及はない。
「マンションなどの集合住宅でのEV用の充電設備設置を無償化する」。2018年1月に東京都が打ち出した方針だ。一見すると単なる充電器向けの補助金制度だが、実はEVが抱える世界的な課題を解決する可能性を秘める。
東京都は、2040年代までに都内のガソリン車の販売をゼロにすることを目指す。目標達成に向けて、真っ先に手を打ったのが充電インフラの整備だった。集合住宅での充電器の設置費用を補助する制度を2018年度に創設する方針を決めた。新年度の予算案に関連予算を計上し、住民負担を実質ゼロにする。
マンションへの充電器設置を阻む障壁は大きく二つある。一つは設置費用。急速充電器の設置には100~200万円かかるとされる。もう一つはマンション住人の合意形成だ。EVを持たない大多数の住人にとっては無駄な出費以外の何物でもない。そこで東京都は、国からの補助金で賄いきれない費用を負担する。さらに、合意形成に関する交渉を担当する人材をマンション管理組合に派遣する仕組みも用意した。
インフラ整備と並行して“激安EV”も
ガソリン車に比べて航続距離の短いEVは都市部の方が相性がよい。課題とされるのが充電インフラの整備だが、逆に言えば、東京都の施策によってこの課題を解決できればEVを普及拡大のスパイラルに乗せていける。急速充電器の普及を進める「CHAdeMO(チャデモ)協議会」で事務局長を務める吉田誠氏(日産自動車環境安全技術渉外部部長)は、「充電器の設置台数とEVの販売台数には強い相関がある」と断言する。
クルマ側の準備も進む。日産やホンダなど、多くの自動車メーカーが2019年から2020年にかけて次世代の量産EVを投入する計画だ(図2)。200万円台で買える“激安EV”の投入でEVの普及を強力に後押しする。これまで400万円以上していたEVの価格が、いよいよ手に届く水準まで下がってくる。
低価格EVと充実した充電網によって低炭素都市の実現を目指す“東京モデル”は、世界中が脱エンジン車へと向かう中で注目を集めることになる