AI(人工知能)を活用する製品開発競争が世界規模に展開される「AIウォーズ」時代に突入するなか、その勝敗を大きく左右するのが人材の確保だ。特に日本が得意とする自動車、電機などの「組み込み業界」では、圧倒的なAI人材不足が指摘されている。その最前線は今、どのような状況になっているのか。エンジニアの派遣や転職支援などで業界大手のパソナテック代表取締役社長の吉永隆一氏に最新事情を聞いた。
「2極化しています」。
AI人材採用の最前線を吉永社長はこう表現する。現状では、企業におけるAIの活用はまだ“第1段階”と言ってもいい状況にある。ITや自動車、家電の大手など一部企業では先行してAIへの投資が進んでいるが、世の中全体を見渡すと、まだそのはるか手前にいる

「AIの活用に不可欠なデータを、まずは集めようという顧客が増えています。これまでは取得していなかった自社のビジネスに関連すると思われるデータを、テキストだけでなく映像や音声からも集めて活用の準備をする動きが顕著です」
こうした状況において、先行企業からは欲しい人材について「体制を作ったのでデータサイエンティストが100人ほしい」など明確な要望が来たりする一方で、“ざっくり”とした要望も多いという。
「AIやIoTに関する新規部署を設立した顧客企業から、『新規部署の責任者や担当者を採用したい』という相談がよく来ます。しかし、AIやIoTといっても具体的に何をやるのか、どんな専門知識を持つ技術者がほしいのか、その部分が明確でないケースも多いです。実際、IoTなどは技術的なカバー領域がかなり広く、決して一人だけでできるものではありません」
2極化は、AI活用がまだ黎明期であることの証左とも言える。
「正直なところ、AIというバズワードが先行している感が否めません」
「背景には2つの要因があります。1つは、将来に向けてのAIに対する期待値です。企業が優秀な人材を集める上でも、会社の価値を高める上でも、AIを活用したデジタルビジネスへのシフトは重要なファクターになっています。もう1つは、超高齢化社会を迎える日本が対峙しなくてはならない厳しい現実です。高齢化によって生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の減少ペースは今後も加速していくと言われています。だから、企業にとってAIやRPA(ロボットによる業務自動化)の導入は、生き残りへのカギになり得ます」