2021年の最重要キーワードといえるのが「カーボンニュートラル」(炭素中立)だ。日本政府による20年10月の宣言を含め、世界の国々が50年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロにすることを目指すことで足並みがそろってきた。
とりわけ、大きな変革を迫られているのが自動車業界である。業界動向に詳しいインテルの野辺継男氏(デジタルインフラストラクチャーダイレクター)は、より国際的視点からの「産業競争力」と「エネルギー安全保障」の2つの議論が重要と説く。インタビューの内容を、前後編の2回に分けてお届けする。
そもそも、世界はなぜカーボンニュートラルを目標としているのでしょうか。
長期的な視点から、その背景を共有しておくことが重要だと思います。地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」には、「地球の平均気温上昇を産業革命前と比較して2度より十分低く保ち、願わくは1.5度以下に食い止める」という数値目標があります。
わずか数度の気温上昇がいったい何を意味するのか。その根拠には賛否両論ありますが、「気温上昇とともに、気候変動や各種災害の拡大、水位・食料生産分布の変化、感染症などの健康被害が拡大し、これらを含む多様な要因から人類を含む種の絶滅といった極めて深刻な結末をもたらす可能性がある」という指摘が、実体験になりつつあります。世界各地で異変が表面化し、もはや否定し難いレベルにあると思います。
平均気温が2度以上上昇した場合、主要な種の絶滅に向かう環境破壊は不可逆と想定されます。だからこそ、人類の共通目標としてなんとしても気温上昇を2度以下に食い止めるということが、緊急かつ非常に重要な目標になっているのです。そして、目標達成の現実的な方法として、CO2に代表される温暖化ガスの大気中への放出を削減し、50年までに実質ゼロにするという議論に帰結したわけです。
もちろん、今後も継続されるであろう世界的な経済拡大は、使用エネルギーの増大を伴います。石炭を利用した蒸気機関に始まる産業革命以降、石油や天然ガスなどを利用した内燃機関が世界の主流になりました。同様に、20世紀に入って実現した蒸気タービンを利用した電力の利用という「エネルギー革命」を経て、これまで経済は指数関数的に拡大してきたわけです。
20世紀の経済拡大には負の遺産があります。それが、大気中に排出・蓄積されたCO2です。地球あるいは生命の危機となり得る可能性が高くなってきた今、新たなエネルギー革命によって21世紀の前半でCO2排出量を実質ゼロにすることが人類として必須であるという認識が大前提になっています。
特に、電力の60%以上を火力発電に頼る中国では、その改善とともに運輸部門でのCO2排出削減の目標として、35年までに乗用車の50%を電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)などの「新エネルギー車」にする方針を打ち出しました。このうち、95%以上をEVとする計画です。長距離バスやトラックなどの商用車はFCV化していきます。中国は世界の自動車市場の約1/3を占めており、必然的に世界の自動車メーカーのパワートレーン戦略に多大な影響を及ぼすことになります。