切粉は集塵機へ直行
プラスチックの加工はクーラントを使わないドライ加工です。金属加工の場合や液体をかけて冷やしながら削りますが、プラスチックの加工には使いません。
ではどうやって放熱するか。プラスチックでも当然、かなりの熱が出ますので、冷却しないと寸法精度が得られません。市販の刃物では冷却が難しい、となったら、やっぱり手段として有効なのが刃物の創意工夫という話になるのです。
プラスチックの切粉は、ひとつながりのアーチ状の曲線になって飛んでいきます。市販の刃物であれば、その刃物に応じてあっちに飛んだりこっちに飛んだりします。自分で刃物を研げば、その曲線の方向を決められる。旋盤の脇に集塵ダクトを置いて、そこへ切粉が入っていってくれれば、掃除が楽になりますよね。実際、きれいなものですよ、うちの工場は。
アクロバティックな話になってしまいますけれども、刃物のすくい面のしゃくれ方で切粉の方向を制御して、径120mmの集塵機のダクトに切粉を直接送り込むようにしています。若い入ったばかりの従業員には「何でこんな曲芸みたいなことをやるんですか」とか聞かれます。彼らにも言うのですけれど、たぶん本当にものを造れる人っていうのは、ただ切粉を飛ばしているだけではなくて熱も管理するから、熱を持たせた切粉が飛んでいく距離や向きもコントロールするはずなんです。工作機械が大きく進歩しても、人が工夫する余地はまた非常に大きいと思っています。
ただそんなふうに言ったら、「ここはレベルが高すぎる」って辞められてしまったこともあります。悲しい思いもしました。
5歳からグラインダーで遊ぶ
そもそもの仕事のスタートは、5歳のときにグラインダーをおもちゃとして与えられたところにあります。まるでアニメ「巨人の星」の主人公「星飛雄馬」のような育てられ方でした。この業界だったらある水準のものを造れるようになり、これまで職人道を貫いてきました。
完成度の高いものづくりを成立させる職人の手は、日本の強みではないでしょうか。できることなら、日本だけの技能として残していきたいと思っています。大所高所からの話ではなくて、将来年を取ったときに年金をちゃんと受給したい、そのためには若い人のために食い扶持を確保しておきたい、というくらいの単純な考えです。これだけ技術が進歩して世界中で同じものを造れるようになる中で、日本の造り手でなければ造れないという技術を持っておかないと、心配じゃないですか。

だから次の世代の担い手をとにかく増やしたい、と思っています。それにはまず、この職業にあこがれてほしい。腕と頭脳、それからメンタル面を磨く必要はありますが、ものを造って手に職をつけていけば、必ず食いっぱぐれがなくなるんだと分かってほしい。今は不安が大きいですが、そうして次の担い手になる人がいれば、日本は世界で3位か4位の技術大国でいられると思うのです。
私も話す中身が年寄りっぽくなってきました。まだ46歳なので年寄りではないんですけれども、黙ってものを造っているだけでは世の中に伝わらないと思うようになりました。ドリームコンテストへの応募も、メディアの取材をお引き受けするのも、地元の東京・大田区内の学校で講演をするのも、次世代の担い手を増やすための活動です。会社は一代でつぶれても構わないので自分の会社の後継者という意味ではありません。とにかく1人でも多く技能の世界に来てもらえたら、と思っています。