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 ここで考えなければいけないのは、製造含む技術開発への投資リスクの判断です。かつて、日本企業は半導体メモリーのDRAMで世界トップの座にいました。ですが、DRAMが大容量化に向けて4Mビット、16Mビット、64Mビットと世代を進めるごとに、設備投資は30%以上増加していきました。日本企業は16Mビットの段階で投資をいったん控えたことで一気に市場シェアを落とし、64Mビット以降、ニ度と挽回できなかったという苦い過去があります。

 最近のEVや電池の開発はDRAM以上の投資額が必要で、個別企業では賄いきれない金額になってきました。必然的に、資本市場の利用が進んでいます。その中で、世界ではESG投資を重視する投資環境に変化してきました。ESG評価の高い企業のみに投資を実施する投資機関が増え、内燃機関や石油関連事業からEVや電池関連事業に投資先が移ってきています。

 英PricewaterhouseCoopers(PwC)は20年10月に発行したリポートで、欧州の投資信託資産の57%が、25年までに環境、社会、ガバナンスの要因を考慮したファンドに保有されると予測しました。さらに、機関投資家の77%が今後2年以内に非ESG準拠商品への投資を停止する予定と説明しています。

ESG投資への対応では、韓国LG Chem(LG化学)が早かったですね。

 同社は20年12月に、電池部門をLG Energy Solution(LGエナジーソリューション)として分社化しました。電池部門をLG化学から切り離したのは、石油化学事業を持つLG化学の株を保有することを避けるESG投資家に対応するためです。ESGを重視する投資家から資金を集め、製造能力を拡大しやすくしたものとみられています。

 もちろん、EVの製造だけでなくリチウムイオン電池の内製化や太陽光パネルの開発販売、欧州での電力事業への参入など、再生可能エネルギーと相性のよい事業を幅広く手掛けるテスラはESGそのものと言える存在です。昨今の驚異的な企業価値の増大の一部を利用するだけで、外部資本によって技術開発や製造能力の拡大を既存企業とは全く異なる規模で進められるのです。

 自動車は脱エンジン車の動きが加速し、エネルギーは石油から再生可能エネルギーへと大転換していきます。こうした変革期を乗り越えるのは容易ではありません。要素技術だけでなく、市場や投資の環境、リスクの判断、政府との関係など幅広くかつ深く洞察しなければなりません。ですが、変化をうまく捉える海外企業は少なくありません。日本の企業も、彼らに負けないようなダイナミズムが必須でしょう。

野辺継男(のべ・つぐお)氏
野辺継男(のべ・つぐお)氏
1983年NEC入社。国内外でIBM互換のパソコン事業および関連事業立ち上げ。2000年末退職後、国内最大級のオンラインゲーム会社を含む複数ベンチャーを立ち上げCEO歴任。04年4月日産自動車入社。ビークル・インフォメーション・テクノロジー事業に従事。12年3月退職。12年4月インテル入社。車のICT化から自動運転全般のアーキテクチャー構築に従事。14年5月名古屋大学客員准教授兼務。現在に至る(撮影:日経Automotive)
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