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接客業がアバターを持ち始める

生身の人間の仕事がVTuberに置き換わっていくとすると、逆に、生身のタレントがVTuberとして活動するようになるのか。

 もちろん増えていくだろう。例えば、最近の声優は、ダンスやトークスキル、ルックスなど、声以外の要素も重要視されている。ただ、もともと自分を表に出したくない人が少なくない職業なので、そういった場合は最初からバーチャル声優としてデビューできる。顔や外見がアバターで、宣材写真もアバター。イベントや音楽ライブも、生身の本人ではなくアバターの姿で出演できる。このように最初からバーチャル声優として活動する選択肢があり得る。

タレント以外にも、今ある仕事がアバターに置き換えられていく?

 可能性は高い。特に、人と接する仕事はすべて置き換え可能だ。例えば、コンビニ店員の代わりとなるバーチャル店員の共同研究を、ローソンと始めている。コンビニ店員以外にも、保険のセールスマンや銀行の窓口担当者など、これまで生身の人間が客とコミュニケーションしてきた仕事は、アバターが前面に出るようになるかもしれない。

ローソンとSHOWROOMが共同研究しているバーチャルクルー「星影みくる」
ローソンとSHOWROOMが共同研究しているバーチャルクルー「星影みくる」
(撮影:日経 xTECH)
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バーチャル店員のいいところは何か。

 1つは、物理的にどこにいても接客できる点である。例えば、今日は東京の店舗で働いて、明日は沖縄の店舗で、明後日は北海道の店舗に出勤できる。

 ただし、それなら別に実写映像でもよいだろうという指摘があると思う。そこで、2つ目の利点が生きてくる。身だしなみを整える手間が削減できる点だ。アバターで出勤するなら、例えば化粧をしなくても済み、髪の毛が寝癖でグチャグチャでも構わなくなり、出勤のハードルが相当下がるだろう。

 このほか、まだ仮説の域を出ないが、アバターの姿になると自分の行動や人格を変えられるという可能性がある。実際に自分で試した際に、女の子のアバターの中に入ると次第に動きが女の子っぽくなり、人格までもアバターの姿に引っ張られていく点がとても面白く感じた。例えば、普段はすごく暗くて接客が苦手な人でも、外見やキャラ設定を明るいアバターにすることで、生身ではできなかった雰囲気で接客できるようになり、精神的な負担を軽減できる。

マニュアル通りに仕事をこなしていくバーチャル店員が理想なのか。

 そうとは限らない。バーチャル店員の役割は、情報を正確に伝えるよりも、アバターの姿の人とコミュニケーションを取れる点にある。要するに、すべて自動化される世の中だからこそ、そういった人のぬくもりをどこかに残さなきゃいけない。そこで、個性を持ったバーチャル店員が活躍する。本当に合理性を求めたら、バーチャル店員という存在自体が不必要になる。もちろん、機械応答のAI(人工知能)よりも正確性が失われるというデメリットはあるのかもしれない。でも、アバターを人が動かすことで、現時点のAIが表現できない感情を表現できる。その個性こそが、人に愛される存在となるアバターを生み出すだろう。

では、その個性について聞きたい。例えば、2018年11~12月に実施したVTuberのオーディションイベント「最強バーチャルタレントオーディション極」では、同一のアバターを使って複数人に演じてもらう形式をとった。この形式にした意図は何か。

 バーチャルタレントという新しいジャンルの才能は、書類や面接だけでは表現しきれない部分を見つけていかなくてはいけない。そこで、実際に配信してもらい、ユーザーの反応を見せていただく流れになった。オーディション参加者の中でも特に輝いている参加者、結果を出せた参加者をピックアップして、全面的にサポートしながら育てていくのが、最もキャラクターIP注1)を成功させる確率が高いと考えた。結果として多くの個性が生まれて、非常に興味深かった。

注1)キャラクターの知的財産(IP)のこと。

 このオーディションでは、外見が全く同じなので、何とか差別化しようと各参加者のキャラ付けに力が入っていた。従来の生身のアイドルのオーディションでもキャラ付けは一般的な手法だが、リアルでのキャラ付けは、かわいい系、きれい系、明るい系などのように、多少のパターンはあっても、そこまで大きく範囲はブレない。ただ、今回のオーディションに関しては、各人の個性がものすごく出ていたと感じた。使用するイラストが同じなので、参加者それぞれがトークのみでのアピールになり、自分をアピールするために個性やキャラ付けをより深くしていったからだろう。

 今回のイベントでは、結果的に非常に大きな反響があった。イベントをきっかけに参加者のファンが多く生まれて、今まで埋もれていた才能が表に出てきた。そういった意味ではこのイベントは成功だったと言える。今後も新たな試みを模索していきたい。

「最強バーチャルタレントオーディション極」
「最強バーチャルタレントオーディション極」
画像の5種類のアバターをそれぞれ12~13人が演じて予選と本選を戦い、最終的に各アバター1人ずつが選ばれた。(出所:SHOWROOM)
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